緑地分布に関する広域的類型化手法の開発
概要:都道府県広域緑地計画や緑の基本計画などの策定において緑地の現況把握が必要とされており広範囲での地域間の比較が出来ることが望まれています。都市内には大小さまざまな規模の緑地が存在し、なかでも、ポケットパークなどと呼ばれる小規模な緑地は、身近な潤いを与える要素として貴重な役割を担っています。しかし、緑地調査ではその面積のみに注目する傾向があり、小規模緑地などの散在する状態はほとんど考慮されてきませんでした。そこで本研究室では、緑地の面積の大きさと散在する状態との両面から分析する手法を開発し、その有効性を検証しています。
類型化の概念

図-2 緑地分布状態
図-1に示した赤色の地域が、例えば図-2のような緑地分布状態をしていたとします。赤色の地域とその他の地域を広範囲で比較しようとすると、膨大な作業量になるとともに判断する人の主観が入ってしまいます。そこで、本研究ではあらかじめ典型的な緑地分布状態を表す標準データ群を整備します。そして、緑地面積の大きさと散在する状態が似通っている標準データ群の各タイプへと自動的に類型化を行います。その結果、客観的な判断と作業量の減少が出来ることから、広範囲からの地域間の比較が容易となります。
 では、標準データ群とはどのようなものでしょうか?
図-1 対象領域(大阪府)
典型的な緑地分布状態を表す標準データ群

まず、都市計画の分野で提唱されている図-3の住区基幹公園の配置図に着目しました。住区基幹公園は2km四方に街区・近隣・地区公園の3種類の規模の公園を整備することを目標としています。そこで、この配置のパターンを図-4のように応用しました。
図-3 住区基幹公園配置図
図-4が典型的な緑地分布状態を表す標準データ群です。最近の緑地政策は小規模緑地を整備する傾向があり、また住区基幹公園の整備目標を応用しているため大きめに面積をとっている可能性があることから、小規模緑地を導入しています。赤枠で囲まれたタイプを基に組み合わせ作成しています。これらを類型化の基準として用います。
図-4 標準データ群
定量化する指標
定量化する指標 内容
面積の大きさ 面積占有率 2km四方内に占める緑地面積の割合を表す。
散在する状態 エントロピー 緑地の散在する状態を定量的に表す。
標準データ群と対象領域の緑地データについて,2km四方の緑地の面積と散在する状態をそれぞれ面積占有率とエントロピーで定量化していきます。
エントロピーは、図-5に示すように同じ緑地面積であってもまとまって分布していると小さな値を示し、ばらばらに散らばっていると大きな値を示す特徴があります。
これら2つの指標を算出し、対象領域の緑地データを緑地面積の大きさと散在する状態から比較し、最も似通っている標準データへと類型化を行います。それでは、類型化結果はどのようにまとめられるのでしょうか?
図-5 エントロピーの特徴
類型化結果
類型化結果は図-6のように地図上へ展開することが可能です。この画像から、例えば赤枠で囲まれた地域は標準データ群の内、「街区公園レベルの緑地のみ」で作成された標準データ群のタイプに最も似通った分布をしていることが把握できます。例えば、4種類の規模の緑地で構成された標準データ群のタイプに近い状態を今後の緑地整備目標とするならば、(緑色)の地域の緑地整備を参考にしてはいかがでしょうか?といった資料になります。
図-6 類型化結果
今後の展開
緑地は他の土地利用の状態や法律によって影響を受けやすいものです。したがって、緑地分布状態の変化を経年的に分析する必要が生じます。今後の展開としては、緑地が散在しながら増加(減少)した、まとまって増加(減少)したといったことを分析していく予定です。
論文
査読付
熊谷樹一郎、石澤秀和、川勝雄介:緑地分布に関する広域的な分析方法の開発、環境情報科学論文集、No.17、pp.35〜40、2003年11月、(社)環境情報科学センター
つづく...