
ミツバチは、女王バチ、働きバチおよび雄バチから構成された高度な階級社会を形成しています。この階級制度を制御する物質として女王バチから分泌されるフェロモンが有名であり、その正体は
9-オキソデセン酸(女王物質)をはじめとする多数の制御物質の混合物だと考えられています。しかしながら、女王バチが希少であることや、フェロモン自体が極微量であることから、
9-オキソデセン酸以外に階級社会をコントロールするフェロモンはほとんど明らかにされていません。

一方、女王バチの生涯唯一の食物として働きバチより与えられるローヤルゼリーは、働きバチの唾液腺である大顎腺や下咽頭腺より分泌される物質です。
Johnston らは、働きバチがフェロモン、 9-オキソデセン酸を 9-ヒドロキシ体に代謝する事実を見出すとともに、その 9-ヒドロキシ体がローヤルゼリーを介して女王バチへ返送され、体内で
9-オキソ体に変換後、再びフェロモンとして分泌されるようなフェロモンサイクル説を提唱しました。この 9-ヒドロキシデセン酸は、実際にローヤルゼリー中に含有されています。

私たちは、このフェロモンサイクル説に則り、従来のような女王バチの分泌腺から直接フェロモンそのものを単離する手法とは異なり、大量のローヤルゼリー中から未知のフェロモンのもとになる物質を見つけ出そうと考えました。そのため、現在、特に
OH 基をもつ脂肪酸の徹底的な探査を実施しています。
また、ローヤルゼリーをはじめ、花粉荷、雄バチなど、ミツバチ社会を構成するパーツについて、天然物化学的な視点からの成分研究も行っています。

主な発表論文
The Absolute Configurations of Some Hydroxy Fatty Acids from the Royal
Jelly of Honeybees (Apis mellifera).
Kodai T., Nakatani T., Noda N.
101st AOCS Annual Meeting & Expo, Phoenix, Arizona, USA (May 16-19,
2010).
Compositions of Royal Jelly II. Organic Acid Glycosides and Sterols of
the Royal Jelly of Honeybees
(Apis mellifera).
Kodai T., Umebayashi K., Nakatani T., Ishiyama K., Noda N., Chem. Pharm. Bull., 55(10), 1528-1531 (2007).
Isolation and Characterization of Some Hydroxy Fatty and Phosphoric Acid Esters of 10-Hydroxy-2-
decenoic Acid from the Royal Jelly of Honeybees (Apis mellifera).
Noda N., Umebayashi K., Nakatani T., Miyahara K., Ishiyama K., Lipids, 40(8), 833-838 (2005).
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