研究概要

■アストロサイトの機能調節を標的とした神経変性疾患治療薬の探索

 アルツハイマー病やパーキンソン病は、その進行を抑制する薬物が存在しない難治性神経変性疾患であり、脳内で増加した活性酸素種による酸化的ストレスが引き金となり神経細胞死が誘発されると考えられています。アストロサイトは、神経細胞を取り巻くグリア細胞であり、その高い抗酸化能や抗酸化物質を神経細胞に供給することにより酸化的ストレスによる神経細胞障害を防御しています。これらのことから、アストロサイトの抗酸化能や抗酸化物質供給能を増加させる薬物は、アルツハイマー病やパーキンソン病の進行を抑制する可能性が考えられます
 我々の研究室では、培養アストロサイトを用いて抗酸化能を上昇させる薬物のスクリーニングと疾患モデル動物における薬物の有効性の判定を行なっています。



■虚血性網膜症における病的血管新生の発生メカニズムと新規創薬標的分子の探索

 糖尿病網膜症、未熟児網膜症、網膜血管閉塞などの虚血性網膜症は視力に重篤なダメージを与える疾患であり最悪の場合失明に至ります。これらの疾患は、さまざまな原因により網膜血管異常が起き、そのため網膜虚血が病的な血管新生を誘発することで、病態の悪化や合併症の発症を引き起こすことが共通のメカニズムとして知られています。現在、この病的な血管新生を抑制するために、光凝固作用を用いたレーザー治療が行なわれているほか、抗血管新生薬の投与が行なわれています。しかし、これらの治療法では、血管新生を抑制するだけで、網膜虚血を解消することには至らず、根本的な治療とはならないことが問題点です。
 我々の研究室では、病的な血管新生を誘導する動物モデルを作製し、まず、病的な血管新生の特徴および発生メカニズムを詳細に明らかにすること、さらにより効果的な治療標的分子の探索を行なっています。

■筋萎縮性側索硬化症の発症と病態進行に関する研究

 筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、運動神経が選択的に障害され、進行性の筋力低下と筋萎縮を示す重篤な神経変性疾患です。その発症原因はいまだに不明で治療が極めて困難なため、我が国では特定疾患に指定されています。ALSの病因については、グルタミン酸過剰説、神経栄養因子欠乏説、フリーラジカル説、免疫異常説などが提唱されているものの結論は出ていません。
 我々の研究室では、神経栄養因子、フリーラジカル、小胞体ストレス、血管内皮細胞などに着目し、ALSモデルマウスを用いて、発症および病態進行メカニズムについて包括的に解析を行っています。



■進行性神経変性疾患における神経細胞死メカニズムの解明

 パーキンソン病は、中脳-黒質緻密質のドパミン神経細胞が選択的に脱落することにより、無動、振戦、反射障害などの症状を示す進行性の神経変性疾患です。家系的にパーキンソン病を発症しやすい患者さんの遺伝子の調査により、主要な原因は細胞で不要なタンパク質が細胞内がに蓄積することにより、正常な細胞活動が行なえなくなることが明らかになってきました。なぜ、不要なタンパク質が細胞内に蓄積するのか、遺伝や環境からの影響、ウイルス感染等、現在世界の多くの研究者が原因の解明に取り組んでいますが、残念ながら未だその原因は明らかになっていません。細胞中のタンパク質は常にフレッシュなものに置き換わりながら細胞を維持しています。神経細胞のようにほぼ一生涯同じ細胞の場合は、タンパク質の正しい品質管理(タンパク質の合成・正しい構造の維持・古くなったタンパク質の効率的な分解)は、細胞の生存にとって非常に重要です。
 我々の研究室では、不要なタンパク質の蓄積による細胞死誘発メカニズムに着目しパーキンソン病の新規治療標的分子の探索を行っています。

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