ブタ母乳中のエクソソーム 仔ブタの免疫発達に効果 養豚現場の感染防御への応用を期待
DATE:2022.09.12広報室
NEWS RELEASE【No.15】
摂南大学(学長:荻田喜代一)農学部応用生物科学科 動物機能科学研究室の井上亮教授と三浦広卓特任助教は、ブタの母乳に含まれるエクソソーム(細胞から分泌される直径50-150ナノメートルの顆粒状の物質)という成分が、仔ブタの免疫発達を促す効果を持つことを明らかにしました。この研究により、仔ブタの健全な発育を支える新たな育成管理技術の提案など、養豚現場での実用的な応用が期待されます。
【本件のポイント】
● これまでほとんど役割が分かっていなかったブタの母乳中エクソソームに、仔ブタのキラーT細胞(病原菌やウイルスの排除を担う)の増殖を促す効果があることを発見した
● エクソソームがキラーT細胞の増殖を促す作用機序の一端も解明した
● 自身の母親以外の母乳を飲んだ仔ブタでも同様の効果が見られる可能性を示した
我が国の養豚では感染率の増加が大きな問題となっており、特に免疫が未熟な仔ブタの感染防御は重要な課題となっています。仔ブタは出生直後に摂取する母乳から免疫成分を体内に取り込むことで、感染防御や自身の免疫発達に役立てます。すなわち、母乳中にどのような免疫成分が含まれているのか、それらがどういった特性・役割を持つのかを理解することは、仔ブタの健全な発育を支える技術の開発に繋がります。
井上教授はこれまでにも、ブタの母乳中に含まれる免疫成分や機能の重要性を明らかにしてきました。今回の研究では、新たにエクソソームという成分が仔ブタにとって重要な免疫成分であることを発見しました。エクソソームは細胞が分泌する極めて小さな物質で、細胞同士の情報伝達に関与しますが、その役割は分泌する細胞によって異なります。そこで、母乳中のエクソソームには仔ブタの免疫発達を促す何らかの情報を伝える役割があるのではないかと考え、実験を行いました。ブタの母乳に含まれるエクソソームと仔ブタの血液中の免疫細胞(リンパ球やマクロファージなど)を一緒に培養すると、免疫細胞の中でも、生体内で病原菌やウイルスの排除を担うキラーT細胞の増殖が促進されることが分かりました。またその作用メカニズムとして、細胞がエクソソームを取り込み(エンドサイトーシス)、キラーT細胞の増殖因子であるインターロイキン2の分泌量を増加させることを明らかにしました。以上より、母乳中のエクソソームには仔ブタの免疫発達を促す役割があると考えられます。
また、ブタでは、母乳から取り込まれる免疫成分の一部は母子の血縁関係が無いと機能しないことが示唆されていますが、今回の研究では、血縁関係のない母子間でもキラーT細胞の増殖が見られました。このため、今回発見したエクソソームの効果は血縁関係に依存しないと考えられます。こうした結果を受け、例えば、エクソソームを豊富に含むブタの母乳を、疾病の仔ブタや低体重の仔ブタに優先的に摂取させることで免疫の発達を促すなど、養豚現場での実用的な技術への応用が期待されます。
なお、本研究成果は学術雑誌「Animals」 (2022年8月24日付)に掲載されました。
URL:https://www.mdpi.com/2076-2615/12/17/2172
■内容に関するお問い合わせ先
摂南大学 農学部応用生物科学科 教授 井上亮
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