「フマーニオール(humanior)」というのは、ラテン語の「フマーヌス(humanus)」の比較級の形であり、「フマーヌス」は、英語の「ヒューマン(human)」、つまり「人間的な」という言葉の語源である。それゆえ、当然、「フマーニオール」は、「より人間的な」という意味である。このコーナーにこのような名がつけられた理由は、もちろん、より豊かで温かい人間性を持つ若人がこの学窓から巣立っていくことを願うという、このコーナー設立の主旨をいくらか明かにするためである。
全世界的な傾向かもしれないが、最近は人々の生きざまの崩れが甚だしい。この国もまたその点で例外ではない。その崩壊の淵源をなすものは単純ではないかもしれないが、ひとつは近代的合理主義である。それは知識に確実性を与え基礎づけるという理論、理性を確立し近代科学を成立せしめたが、他面、人間を自然から疎外するという結果をもたらした。これに加えて、近代社会の形成の主流をなした産業資本主義は、個人を欲望の塊としてみることによって人間を自然化したが、これは、個人が公共的社会を軽視する傾向を生み出した。このことがもたらした災いは、わが国では、ことに深刻なものがある。そのことの理由は、わが国は、道徳に基盤を与える絶対的な宗教を元来欠く上に、去る大戦に敗れて以来それまで自ら道徳的思考の枠組みとしていた儒教を捨て去って、それに代わるものをまだ持たずにいることにあろう。
こうした状況において、まず求められてしかるべきは、人々がまことの人間性を回復することである。このことを願い、本コーナーには、より豊かな人間性を築きより深く広い心を涵養する手がかりになると思われる作品が選ばれている。このコーナーが、未来を背負う若い学生諸君の「こころ」を育てる土壌となり、成長を促進する光や雨や風を与えるものであることを期待する。