研究
1. 難治性(ステロイド抵抗性)喘息の機序解明と治療薬の開発
 喘息などのアレルギー疾患の発症機序は、これまでIgE-肥満細胞の軸とTh2-好酸球の軸で説明されてきました。近年、上記機序に加えて、抗原に含有されるプロテアーゼにより上皮細胞がネクローシスをおこし、それにより放出されるIL-33およびTSLPが2型自然リンパ球(ILC2)を活性化し、アレルギー反応を増強するILC2-好酸球の軸が追記されるようになっております(図1)。
 喘息治療における長期管理は専ら吸入ステロイドによって行われますが、近年、5-10%の喘息患者はステロイドに対する耐性を獲得し、コントロール不良な難治性喘息患者であることが問題となっております。また、難治性喘息の患者においては、2型サイトカインを高産生する活性化ILC2数が軽症患者と比較して顕著に多いことが明らかになっております。したがって、ILC2において量および質的な変化が生じることで、難治性喘息の病態が形成される可能性が考えられます。しかし、ステロイド抵抗性獲得機序など詳細は不明な点が多いのが現状です。
 本研究室においては、喘息におけるステロイド抵抗性獲得機序を詳細に明らかにすることを目的に、ステロイド感受性ならびに抵抗性喘息モデルマウスを作製しております(Matsuda M et al., Eur J Pharmacol., 2022)。図2に示すように、卵白アルブミン(OVA)を3回腹腔内投与することにより感作を行ったBALB/cマウスにOVA溶液を低用量(5 μg/animal)あるいは高用量(500 μg/animal)のOVA溶液を投与することで、それぞれステロイド感受性あるいは抵抗性を示すモデルマウスを作成しております。低用量モデルにおいては、気管支上皮の肥厚や粘液貯留がデキサメタゾン投与により抑制されるのに対し、高用量モデルにおいてはそれらに対する有意な抑制が認められません。さらに、高用量モデルにおいては顕著な線維化の形成が認められ、デキサメタゾンによる抑制効果が認められないことを明らかにしております。
 さらに、本ステロイド抵抗性喘息モデルにおいては、上記難治性喘息患者の特徴と一致して、2型サイトカインを高産生するpathogenic ILC2が顕著に多いことも明らかにしております(図3)。現在、pathogenic ILC2のステロイド抵抗性獲得に関与する分子を多数見出しており、それらに対する治療薬の開発を進めております。
2. アレルゲン免疫療法の効果発現機序に関する研究
 アレルギー疾患を根本的に治療するためには、抗原を回避するか、あるいは抗原を皮下や舌下に投与することによるアレルゲン免疫療法が行われます。しかしながら、免疫療法の有効性の発現機序は明らかではありません。研究室では、マウスのアレルギー性気道炎症モデルを用い、アレルゲン免疫療法の効果発現機序として、”誘導型の制御性T細胞 (Tr1細胞)”に着目し、その役割を解析するとともに、薬物やプロバイオティクスなどを用いて生体内で効率的にTr1細胞を誘導する方法などの開発に取り組んでいます。また、大阪医科大学・耳鼻咽喉科学教室(河田 了 教授、寺田哲也 准教授)との共同研究で、花粉症患者の血液細胞を用いたアレルゲン免疫療法の有効性に関する臨床研究も進行中です。