研究室紹介

藤井 嘉祥

[ラテンアメリカ地域研究(主にグアテマラ、メキシコ)・開発経済学]

「地域」を研究する

 私は大学でスペイン語を専攻したことがきっかけでスペイン語圏のラテンアメリカに興味を持ち、メキシコ留学を経て、ラテンアメリカ研究の道へ進みました。アメリカ大陸に18ヵ国あるスペイン語の国の中で、グアテマラという小さな国とメキシコという域内大国の2つの国を研究しています。「地域」とは、共通の歴史的・文化的背景を持ち、それを基層として似通ったプロセスで近代化し、現代においても政治・経済・社会・文化の領域で共通した特徴と課題をもつ国々の集合体といえます。そのため、ある「地域」を深く理解しようとすると、歴史、文化、政治など多様な側面から地域を学ぶことが不可欠になります。

グアテマラの韓国系アパレル企業との出会い

私の専門は発展途上国がどのようにして経済発展できるかを研究する開発経済学ですが、ラテンアメリカ研究を始めた当初はマヤ文明に興味を持ち、先住民文化を研究しようと文化人類学を専攻しました。しかし、グアテマラで調査地を探している際に、韓国のアパレルメーカーが大挙してグアテマラに進出し、マヤの先住民を労働力として雇用して衣服を作り、米国に輸出している現場と出会いました。折しも1990年代末で、「グローバリゼーション」という言葉が広がりつつあった時でした。グアテマラに残る世界遺産ティカル遺跡のような都市文明を興隆させたマヤ人の末裔が、韓国企業と結びついてグローバルな存在になっていることを見て、文化と経済の両面からラテンアメリカという「地域」を調べる必要性を感じました。同時期にラテンアメリカから米国への移民も増加し、社会問題となりつつあったことから、先住民文化・アパレル産業・移民を包括的に研究する方法として国際社会学を学び、さらには途上国における産業発展と貧困問題を専門的に研究すべく開発経済学の道に進みました。

フィールドワークという手法

 私の研究テーマは、先進国企業のグローバル戦略が途上国の経済発展を促進するか、また促進するためには何が必要かというものです。経済のウエートが大きくなり、文化が消えてしまいましたが、具体的には韓国企業のグローバル戦略がグアテマラのアパレル産業の発展につながるかどうか、日本企業のグローバル戦略がメキシコの自動車産業の発展を促進するかという研究に取り組んでいます。このテーマに取り組むにあたり、現地に渡航して、工場を訪問して生産現場を観察したり、工場長にインタビューしたり、工場労働者の家を訪ねて工場での仕事経験や家庭状況の話を聞いたり、省庁や業界団体、労働組合を訪問して話を聞いたり、内部資料を閲覧したりというフィールドワークの手法をとっています。現場を見る興奮、人と出会う喜びを感じられるのが醍醐味ですが、やみくもに現場を見るだけでは、経済発展という大きな問題が見えてきません。文献を読んでマクロな構図(理論)をインプットしてから、現場でミクロな情報を集めてマクロな構図にはめ込んで考えるという思考が不可欠です。

グローバル経済と途上国の人権問題

 さて、それではグローバル企業の戦略は途上国の経済発展を促進しているのでしょうか。グアテマラで20年にわたり調査してきた結果からいうと、産業発展はある程度進むが、労働者の貧困は深刻化するため、国内の購買力は伸びず、経済発展には至らないということが言えます。安くて従順な労働力を使いたい韓国アパレル企業の思惑と、韓国企業を優遇することで韓国政府・企業からさまざまな援助を引き出そうとするグアテマラ政府の思惑のはざまで、低賃金労働と法を無視した人権侵害が引き起こされています。近年、SDGs(持続的開発目標)でも謳われているように「ビジネスにおける人権尊重」が企業の社会的責任とされています。これからは人権に配慮した経済活動を行わないと、企業も国も発展できない時代に向かうでしょう。最近、強制労働によって栽培された新疆ウイグル自治区産の綿を使用していたアパレルブランドが非難されましたが、人権侵害を助長するアパレルブランドは先進国の政府や消費者から制裁を受けます。グローバル企業と途上国政府がいかに人権問題を改善できるかが途上国の発展のカギになります。そこで現在は、政治の側面を含めて人権問題が途上国の経済発展に与える影響についての研究に取り組んでいるところです。グアテマラに関する研究成果は『グアテマラを知るための67章[第2版]』(桜井三枝子編著、明石書店)に短くまとめています。興味を持たれた方は、こちらもご一読ください。

<写真1>ティカル遺跡(グアテマラ)

<写真2>アパレル工場での作業風景(グアテマラ)

PAGETOP