研究プロジェクト
レクチン固定化蛍光ナノスフェア(ナノビーコン)を用いた大腸がんイメージング

 大腸がんは大腸粘膜側から発生する悪性腫瘍であり、その治療法の第一選択は手術による病巣部位切除です。現在、感度・確度の最も高い大腸がんの診断法は大腸内視鏡検査であり、拡大内視鏡や狭帯域光観察など、近年の内視鏡技術の進歩はがんの早期発見に大いに貢献してきました。しかし、粘膜組織の形態学的変化を内視鏡下で医師が観察し、がんの疑いのある粘膜組織を採取し、病理検査でがん化の有無を判定する内視鏡診断の手法は変わっておらず、医師の経験や技量、機器の性能に依るところが大きい診断法です。私達は、がん化に伴い大腸粘膜上に特異的に発現するがん特異抗原(Thomsen-Friedenreich(TF)抗原)の末端糖鎖を分子認識し、がんを可視化する蛍光造影剤「ナノビーコン」を創製し、大腸内視鏡検査時に用いる体内診断薬及び大腸内視鏡下で採取した粘膜組織のがん化の有無をその場で迅速判定する体外診断薬としての開発を目指しています。「ナノビーコン」は、TF抗原の末端糖鎖β-D-galactosyl-(1-3)- N-acetyl-D-galactosamine (Gal-β(1-3)GalNAc)を認識するピーナッツレクチン(PNA)と、正常部位との非特異的相互作用を抑制するポリN-ビニルアセトアミド(PNVA)を表面に固定化し、蛍光量子効率の高いクマリン6を内包したサブミクロンサイズの蛍光性のポリスチレンナノスフェアからなるナノバイオコンジュゲートです。体内診断では、内視鏡下、ナノビーコンの大腸内投与後、大腸粘膜上のがん病変に集積したナノビーコンの蛍光に由来するがん組織(明部)/正常組織(暗部)のコントラストに基づき、がんを診断します。また、体外診断では、摘出した大腸粘膜組織にナノビーコンを接触させ、大腸粘膜上のがん病変に集積したナノビーコンの蛍光により大腸がんを可視化し、がんを診断します。


図.ナノビーコンの概念図