著書紹介
アプローチ 環境ホルモン
−その基礎と水環境における最前線−

1997年9月にシーア・コルボーンらが著した“Our Stolen Future"が邦訳され,「奪わ れし未来」として出版されて以来,「環境ホルモン」問題は国内で大きな社会問題となり ました。その後,1997年の関係省庁会議の発足に続き,1998年には,環境庁(現環境省) から環境ホルモン戦略計画(SPEED'98)が発表されました。また,環境ホルモン学会が発 足したと同時に,環境省主催の内分泌攪乱化学物質に関する国際シンポジウムが毎年11〜 12月に開催されるようになりました。そして,国内外の調査・研究の成果が,各種学会, シンポジウムや講演会において一気に公表され,これらの議論の中で,内分泌攪乱化学物 質には閾値はあるのか,用量依存性はあるのか,野生生物に対して生じた影響がヒトに対 して同様に起こるのか,などの議論が噴出しました。
このようなあわただしい動きのなか,1998年9月,日本水環境学会関西支部に内分泌攪乱 化学物質部会が発足し,約2ヶ月に1回のペースで勉強会が続けられました。発足1年目は, 国内外の動向に関する情報交換や,水環境における内分泌攪乱化学物質の挙動,内分泌攪 乱化学物質の分析手法,毒性評価手法などに関するレビューを行い,そのまとめとして, 2000年2月には,当部会の企画で,著名な環境ホルモン研究者を招いて支部講演会「内分泌 攪乱化学物質の最前線」を実施しました。その後,このような活動の成果を多くの人々に 知ってもらうために,本部会活動の大きな目標の1つとして,内分泌攪乱化学物質問題に 関する一般向け書籍を出版することになりました。
本書を編集するに当たっては,わかりやすくしかも資料性を高めた内容にすることに努 めました。そこで,以下のような内容を盛り込みました。環境ホルモン問題の歴史的経緯, 環境ホルモンの定義,種類と各種特性,作用メカニズムを含む環境ホルモンの実像,水生 生物,野生生物およびヒトへの影響,環境ホルモンによる水環境の汚染に関する実態・挙 動,および天然ホルモンの評価が含まれています。また,環境ホルモンのヒトへのリスク に関する曝露経路と曝露濃度およびリスク評価についても言及しています。代表的な環境 ホルモンのバイオアッセイによる検知および機器分析とその原理,さらに,国の政策と市 民の対応など環境ホルモン問題解決へのアプローチについて述べ,環境ホルモン問題に関 する情報サイトおよび書籍まで幅広く紹介しています。
内分泌攪乱化学物質問題解決のための調査・研究は,わが国をはじめ米国やヨーロッパ 諸国において現在もなお進められています。そのため,内分泌攪乱化学物質に関する疑問 への答えは,現時点では出ていないのが現状です。このような状況のなか,本書が内分泌 攪乱化学物質問題の最新動向について知ろうとする人に役立てば幸いです。
本書の出版は,関西支部の幹事会のご協力がなくては成し得ませんでした。企画から2年 以上にわたり部会活動を支えていただいた,福永前支部長はじめ幹事の皆様にあらためて 御礼申し上げます。また,私たちの遅々とした歩みに辛抱強く付き合っていただいた,技 報堂出版株式会社編集部の小巻 慎氏,飯田三恵子嬢にもお礼を申し上げます。
日本水環境学会関西支部 内分泌攪乱化学物質部会
部会長 中室克彦(現支部長)
幹事 古武家善成
社団法人 日本水環境学会関西支部 編
技報堂出版
2003年9月25日発行
ISBN4-7655-3191-0 C3045
定価=本体3,800円+税