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微生物殺虫・殺菌剤を用いた野菜重要病害虫のデュアルコントロール技術の確立

研究代表:農研機構
研究分担:摂南大学、三重県農業研究所、奈 良県農業研究開発センター、岐阜県農業技術センター、宮城県農業・園芸総合研 究所、アリスタライフサイエンス(株)、ヤマホ工業(株)

研究の背景

近年、ヒトの病気において抗生物質が効かない耐性菌の蔓延が問題となっていますが、ヒトの薬だけでなく植物の農薬 でも同じ状況となりつつあり、化学農薬が効かないた めに植物の病気や害虫を防ぐ防除が難しくなっています。新たな化 学農薬の開発には数千万円にのぼる莫大な開発コストとおよそ10年の期間が必要とされ、耐性菌の出現によりすぐに使 い物にならなくなるリスクを抱えています。また化学合成された化合物そのものが消費者から敬遠される傾向にあり、さ らに地球規模で進められる自然環境への配慮からも、化学農薬に変わって、次世代へ継承される持続可能な防除法が求め られています。

野菜の重要な病害虫
薬剤耐性/抵抗性を示す病原菌や害虫が多く報告されており、深刻な問題となっている。

生物農薬とは

生物を利用した生物農薬は、耐性菌が 出にくく、また環境への負荷が少ないとされる持続可能な病害の防除方法であ る、化学農薬を用いる化学防除に対して生物防除と呼ばれています。しかしながら、生物農薬は化学農薬と比べると、防 除効果のある害虫や病気が限定されている、防除効果が気候などで変動しやすい、化学農薬と比べると高価、などのデメ リットもありました。生物農薬を使った生物防除法は、 生物そのものを使うため、植物を育てながら生物農薬もうまく育 てる必要がある高度な手法です。

化学農薬と生物農薬の違い
化学合成された化学農薬と異なり、生物そのもの(または生物から産生された天然物)を使用する生物農薬は、 その耐性菌が出現しにくいとされる。ただし効果がマイルドに現れるという欠点もある。

新たなタイプの微生物農薬

本来、植物の病気には殺菌剤を、害虫には殺虫剤を使用しますが、我々は既存の微生物殺虫剤から殺菌剤としても利用 できるボタニガードES(アリスタライ フサイエンス社)を見いだしました。野菜の重要病害である「うどんこ病」にも 高い防除効果を示すことから、1剤で殺菌剤と殺虫剤の2役を果たす微生物殺菌・殺虫剤として利用でき、農薬散布の 労力カットやコスト削減につながることが期待されます。


ボタニガードES

すでに殺菌剤としても登録が認可され、使用できます!
詳しい使用方法、適用範囲は下記のHPを参照ください。

https://arystalifescience.jp/catalog/p_botaniguard.php

殺菌剤としてのメカニズムを解明!

我々は、 ボ タニガードESに含まれている昆虫に寄生する微生物Beauveria bassiana(ボー ベリア  バシアーナ)が、植物の抵抗性を活 性化するということを発見しました。ボーベリアが植物の内部と 外部の両方に住みつくこと(※1,2)で植物の抵抗性を誘導して いると考えられます。



ボタニガードESの病害防除メカニズム
うどんこ病菌の植物への侵入を、植物は局部的な抵抗性を誘導することで阻害する。


なぜ元々は微生物殺虫剤であったボ タニガードESが、微生物殺菌剤としても利用できるようになったのか を、一般の方にも分かりやすいアニメーションにしました。より専門的な内容は、下記の論文・総説等を参照ください。

害虫と病害のデュアルコントロールに向けて

現在、農研機構を中心として全国で微生物農薬の 実用化を進めています。現行の防除体系にどのように組み込 むことができるのか、またその具体的なメリットについても検証中ですが、さらに微生物農薬の散布にかかる労力軽減につ いて も取り組んでいます。水和剤は大量の水で希釈する必要があるため、水を利用しにくい場所や、水そのものの重量が問題となっていました。 そこで、安価に購入できるブロワー(枯 れ葉などの集塵器)を使った散布技術を開発中です。先端に微生物農薬を散布するためのノズルを装着し、水で懸濁することなく水和剤を散布することが可能 となります。

殺菌剤や殺虫剤との混用が可能!

ボタニガードESの有効成分は昆虫に寄生するBeauveria bassiana(ボー ベリア  バシアーナ)という微生物であることから、我々はボタニガードESに対する他の農薬の影響を解析し、混用の可能性を明らかにしました。強く影響 する農薬については混用を避け、間隔を空けた散布を心がけてください。

ボタニガードESの混用可能性(リーフレット)

アウトリーチ活動

現在も研究コンソーシアムでさまざまな研究を実施中です。本事業に関するお問い合わせや、講演の申し込みは下記ま でお願いいたします。
また一般の方向けのパンフレット(※)や日本語の著書(※5〜8)も 発表しています。

摂南大学 農学部 植物病理学研究室
飯田祐一郎
TEL:072-896-5312
E- mail:yuichiro.iida(AT)setsunan.ac.jp
※(AT)を@に変換して送信ください。

摂南大学ではボタニガードESの作用機作を解析中です。


アウトリーチ活動

現在も研究コンソーシアムでさまざまな研究を実施中です。本事業に関するお問い合わせや、講演の申し込みは下記ま でお願いいたします。
終了時評価


参考資料(PDFダウンロード)

イノベーション創出強化研究推進事業  研究成果集(応用ステージ←最高評価のA判 定!
イ ノベー ション創出強化研究推進事業  研究成果集(開発ステージ)
イ ノベー ション創出強化研究推進事業  終了時評価(開発ステージ←最高評価のA判 定!
研究紹介パンフレット
ボタニガードESの混用可能性(リーフレット)
・プ レスリリース(摂 南大学PR TIMES大 学プレスセンター
・研究紹介記事(YUIME Japan

アウトリーチ活動(招待講演など)
  1. ・ 飯田祐一郎「カ ビを利用してカビを抑える 〜病原菌と寄生菌の戦い〜 」
     日本防菌防黴学会
    (関 西大学, 2021.9.9)
  2. ・飯田祐一郎「一緒に学ぼう!What’s SDGs」
     FMひらかた(2021.9.21)
  3. ・飯田祐一郎「微生物殺虫剤ボタニガードESの病害防除における作用機作」
     日本植物病理学会バイオコントロール研究会(神戸大学, 2022.3.29)
  4. ・山中聡「微生物殺虫剤ボタニガードESの殺菌剤としての実用化と展開」
     日本植物病理学会バイオコントロール研究会(神戸大学, 2022.3.29)
  5. ・窪田昌春「Control of both powdery mildew diseases and pest-insects on vegetable plants with a single micobial agent」
     Food and Fertilizer Technology Center, Asia-Pacific Biofertilizers and Biopesticides Workshop(韓国, ソウル, 2024.5.8)
  6. ・ 関口実里 「 生物系特定産業技術支援センター「イノベーション創出強化研究推進事業」研究課題名:微生物殺虫・殺菌剤を用い た野菜重要病害虫のデュアルコントロール技術の確立」
     令和3年度全国農業システム化研究会, 重要病害虫対策に係わる生物農薬等の利活用に関する実証調査(IPM実証調査)最終成績検討会 (東京都千代田区, 2022.3.9)
  7. ・ 窪田昌春 「微生物殺虫・殺菌剤を用いた野菜重要病害虫のデュアルコントロール技術の確立」
     令和4年度全国農業システム化研究会, 重要病害虫対策に係わる生物農薬等の利活用に関する実証調査(IPM実証調査)最終成績検討会 (東京都千代田区, 2023.3.9)

関連する論文・総説
  1. Epiphytic and endophytic colonization of tomato plants by the entomopathogenic fungus Beauveria bassiana strain GHA
    Mycology, 12(1), pp.39-47, 2020
    Oumi Nishi, Hirotoshi Sushida, Yumiko Higashi, Yuichiro Iida
  2. Entomopathogenic fungus Akanthomyces muscarius (Hypocreales: Cordycipitaceae) strain IMI 268317 colonizes on tomato leaf surface through conidial adhesion and general and microcycle conidiation
    Mycology, 13(2), pp.133-142, 2021
    Oumi Nishi, Hirotoshi Sushida, Yumiko Higashi, Yuichiro Iida
  3. 2020 年10~11月に茨城県つくば市で発生したメロン,キュウリ,ナスうどんこ病菌の殺菌剤耐性
    関東東山病害虫研究会報, 68, pp.1-4, 2021
    窪田昌春, 竹山さわな
  4. Entomopathogenic fungus Beauveria bassiana-based bioinsecticide suppresses severity of powdery mildews of vegetables by inducing the plant defense responses
    Frontiers in Plant Science, 14, 1211825, 2023
    Yuichiro Iida, Yumiko Higashi, Oumi Nishi, Mariko Kouda, Kazuya Maeda, Kandai Yoshida, Shunsuke Asano, Taku Kawakami, Kaori Nakajima, Katsutoshi Kuroda, Chiharu Tanaka, Ayano Sasaki, Katsumi Kamiya, Naho Yamagishi, Masashi Fujinaga, Fumihiro Terami, Satoshi Yamanaka, Masaharu Kubota
  5. Simultaneous use of Beauveria bassiana and Bacillus subtilis-based biopesticides contributed to dual control of Trialeurodes vaporariorum Westwood (Hemiptera: Aleyrodidae) and tomato powdery mildew without antagonistic interactions
    Egyptian Journal of Biological Pest Control, in press, 2024
    Yasuyuki Komagata, Takayuki Sekine, Takaho Oe, Shogo Kakui, Satoshi Yamanaka
  6. 微 生物農薬による病害虫デュアルコントロールの可能性 〜昆虫寄生菌と植 物との相互作用を介した生物防除〜
    生物的防除部会ニュース, 東京農業大学総合研究所研究会, 68, pp.7-11, 2019
    飯田祐一郎
  7. 病 原菌と害虫を同時に防除!〜病害虫デュアルコントロールの概念〜
    技術と普及, 全国農業改良普及支援協会, 1, pp.38-39, 2019
    飯田祐一郎, 山中聡
  8. 微 生物殺虫剤ボタニガードESの野菜類うどんこ病に対する作用機作
    バイオコントロール研究会レポート, 16, pp.9-13, 2022
    飯田祐一郎
  9. 微 生物殺虫剤ボタニガードESの殺菌剤としての実用化と展開
    バイオコントロール研究会レポート, 16, pp.14-18, 2022
    山中聡
  10. 三 重県におけるタバココナジラミバイオタイプQ成虫に対する主要殺虫剤の殺虫効果
    関西病虫害研究会報, 64, pp.151-154, 2022
    佐々木彩乃, 西野実, 田中千晴
  11. 施 設野菜栽培における微生物殺虫・殺菌剤を用いた病害虫デュアルコントロール
    施設と園芸, 203, pp.18-24, 2023
    窪田昌春
  12. ト マトに対するBeauveria bassiana水和剤のブロワー処理高度の検討
    関西病虫害研究会報, 64, pp.131-133, 2022
    杖田浩二, 伊藤祐気
  13. 常 温煙霧処理技術を用いたトマトうどんこ病に対するボーベリア・バシアーナ乳剤の防除効果
    バイオコントロール研究会レポート, 2024
    村田つばさ
  14. 施 設野菜栽培における微生物殺虫殺菌剤を用いたうどんこ病およびタバココナジラミの同時防除
    技術と普及, 60, pp.36-38, 2024
    川上拓
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