新入生諸君へ――視聴覚人間から読書人へ
図書館長 布目 潮ふう
(国際言語文化学部教授)
入学おめでとう。今は入学の喜びにひたっているでしょうが、摂南大学合格だけで、もう堂々と人生に船出したなどと思っては、世の中はそんなに甘いものではありません。
私が新入生の一般教育の歴史学を担当した時、夏休みに一冊の文庫本を読んで感想の提出を求めたところ、教科書・参考書以外の教養書を始めて一冊読んだ人がいて、一冊の本を読みきるとこんなに面白いものだということがわかったという感想があって驚きました。最近では、テレビ・ラジオ、またテープによっても知識の獲得ができ、それも一つの勉学の方法でしょうが、それしかしない人や、漫画の本しか読まない人を、私は「視聴覚人間」とよびたいと思います。
しかし大学で諸君がこれから講義を受けることになりますが、これも聴覚を主とするものです。しかし講義を教科書やプリント、またノート筆記によって、文字化して始めて知識を確実にすることができ、講義を聞きながしただけでは、知識としては定着はしません。
「読書人」とは、古く中国人がインテリのことをこのように呼び、その人は古典の理解ができ、古典のような作文のできる人で、そのような人をまた「士大夫」と言い、庶民と区別しています。私は図書館長として、諸君が庶民である視聴覚人間から、士大夫である新しい読書人になっていただくことが、大学生の資格と考えます。
図書館は、書物によって伝達されてきた人類知識の宝庫であります。書物を自分で買って読むことももとより必要でありますが、それには限界があり、図書館の利用が必要になります。読書によって講義等で得た知識を確実なものにし、またそれを無限に拡大していく方法を体得できれば、大学生としての素地は充分に達成でき、知的落伍者となることはありません。
この図書館報は「学而」と命名し、その典拠は上欄に書いてあります。新入生諸君!一日も早く、読書して何とよろこばしいかという境地になって下さい。14万5千冊の蔵書、それを検索するコンピュータ端末機、それらについてのサービスをする図書館職員が諸君の利用を今か今かと待っています。
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特集:私のすすめる必読書
――これだけは読んでおこう
4学部の先生方から、それぞれの立場で必読書を紹介していただきました。新入生諸君はもちろん、上級生諸君も在学中に必ず読んでおきましょう。紹介図書はすべて図書館にあります。
「風土」 和辻哲郎 著 (岩波文庫)
「「いき」の構造」 九鬼周造 著 (岩波文庫)
「陰翳礼讃」 谷崎潤一郎 著 (中公新書)
工学部・建築学科教授
足 立 孝
近代化・国際化の進展により、私達の環境や私達自身まで変わりつつあるかに見える。それだけに、変るものと変らないものについて、あらためて、考えてみてはどうだろうか。その意味で、半世紀近く静かなベストセラーを続けている書を推せんする。
「風土」は留学中の見聞をもとに、欧州を牧場に、中近東を沙漠に、アジアをモンスーンに代表させ、そこに住む人や共同体の性格、生産の仕方、街なみ、芸術表現などの特色をとりだし、風土の側から人間の学を構築しようと試みたもので、特に西欧と対比させた日本文化についての卓見は、その後の数多い日本文化論の原点になったものと云える。著者の卓抜な芸術的直観力と詩人的解釈が魅力になっている。
「「いき」の構造」は"生きた哲学は現実を理解しうるものでなくてはならない"という立場から、"いきとはわが民族に独特な生き方の一つではないか"と、江戸文化が生んだ美意識に着目して、文学や歌舞伎などから姿態・音声・模様・色彩・建築・音楽に窺えるいきを浮彫りにし、さらに類縁語との関係を吟味していきの位置づけと定義を見事に小冊子にまとめあげたもので、著者のフランス哲学で鍛えた明晰な眼を感じさせるものである。私達の生活文化の大部分は江戸後期に形成されたものだが、今やその多くは忘れられ、失われつつある。本書を熟読すれば、いわゆる回顧趣味にとどまらず、新しい目を持ちうる端緒になるのではないかと思う。その意味では、鋭い感性から生れた「陰翳礼讃」もあわせ読むことをすすめたい。
「ことばの世界」 藤田 実・平田達治 編(大修館)
「ヴィクトリア女王」L・ストレイチイ 著 (冨山房)
国際言語文化学部教授
中 川 努
「ことばの世界」
学生は外国語といえば、すぐに試験や教科書を思い出して、いささか憂鬱な気持ちになりがちだが、ときには教室の授業などから距離をおいて、大らかな気持で外国語――というより、むしろ「ことば」全体を見とおしてみたらどうだろうか。
そのようなときに、この本はまことに恰好のガイドになりそうだ。
全体が第一部と第二部とに分れていて第一部では世界のことばが限りなく多様でありながら、それでいて一方に普遍的な働きを持つことを探究し、第二部は「世界の国ぐに・ことばの旅」と果して、それぞれの国のことばが、決して偶然にできたのではなく、その国の歴史と文化に根ざすところのものであることを強調している。
第一部では、ことばの組織の問題から、日常のことばと詩のことばのちがいはどうして生れるのかという問題が、日本の短詩型である俳句を例にとって説明されていて興味深い。第二部は、各国のことば――ここでとりあげられているものは英・仏・独・中国などであるが叫それぞれのことばの背後にあるものについて言及され、たとえばイギリスの∪とnon∪の関係など日本人から見れば、めずらしいことではあるが、それがやはりことばの根底にあるのだということがよくわかる。
ともかく、とても楽しくことばについていろいろなことを教えてくれる本である。
「ヴィクトリア女王」
伝記の作法に革命をもたらしたといわれるリットン・ストレイチイLytton Stracheyの作の中でも、とくに評判の高いもの。1918年にこの本が出たとき、上品な社会に下品な伝記を持ち込んだというので大問題になったほどである。今日から思えば至極おもしろい伝記だが、当時は上流階級の人が死ぬと、二巻物の伝記が出版されて、ほめことばばかりで頼られていたが、ストレイチイはそれをひっくりかえして、ずいぶん書きたいことを書いた。
しかし、ともかく、イギリスの歴史の絶頂期に君臨した女王の生涯を生き生きとした筆使いで画いたものと言うことができる。
「情報ネットワーク社会」 今井賢一 著 (岩波新書)
「街道をゆく」 司馬遼太郎 著 (朝日文庫)
経営情報学部教授
玉 永 一 郎
本は自分で買って読むべし
最近、活字ばなれの傾向が強いといわれながらも、一方では、若ものは本が好きだともいわれている。その内容・実態はよく分らないが、洪水のように出版物の多い中で何を読むかを決めるのはむずかしい。そこで、各種書評を頼りにして書物を買い求めることも多くなるが、やはり自分で直接書店へ行って棚を眺める楽しみを覚えてほしい。入口に近いところに積んであるものより、奥の方の棚に並んでいるものを見に行く習慣がつくとよいと思う。そして、自分に合った書物を自分で買って、自分の所有物として、時間をかけてでも初めから終りまで読み通す努力が望ましい。
いろいろの立場からの必読書があるだろうし、専門書については、専門教科の先生から指示されるだろうし、ここでは、一般的な教養のための一つとして、次のものをすすめたい。
「情報ネットワーク社会」
高度情報社会とかニューメディア時代といわれるものの由来、現状を知り、その展望を行う基礎的な知識を修得するための手頃な書物であろう。
「街道を行く」
現在を理解し、将来を展望するには歴史を知らなければならない。過去の人が生きた道すじを極めながら現状を見すえて歩く、著者の旅行記であるが、案内書ではなく、著者の多くの作品の底流を形成している史観を感じとることができる。(12巻までが文庫版になっている)
「薬学生のための有機合成化学」 山田俊一 慣習(広川書店)
「現代の有機化学 第10巻 有機合成法」 R.E.Ireland著(東京化学同人)
「理科系の作文技術」 木下是雄 著 (中公新書)
「生命の無機化学」 松島美一〔ほか〕著 (広川書店)
「自然の哲学」 田中 一 著 (新日本新書)
薬学部・薬学科教授
廻 治雄
図書館の方から「私の薦める必読書」という表題で3、4冊の著書を紹介して欲しいとの依頼があった。恐らく他の研究室の先生方にも似たような依頼があると思いますので、私は薬化学の立場から書きます。最近の所謂(いわゆる)生命科学の進歩は著しく、薬化学の分野でも古典的な名著は多いのですが、やはり新しい知識を盛った著書の方が、より学部学生にとっては必要ではないかと思い第二薬化の若い先生達に1冊ずつ推薦してもらったのが以下の書籍です。
「薬学生のための有機合成化学」
本書は新しい薬学教育における有機合成化学に一つの指針を与えるもので、従来の本と異った構成として合成化学の基本となる結合の形成及び開裂を多元素別に分類記述し、興味深く学ぶことに新機軸を打ち出そうとし、ユニークな意図がうかがえる。
「現代の有機化学 第10巻 有機合成法」
有機合成には、芸術家が作品を創造していくに似た興奮と喜びがある。そう言う専門の道をのぞき見、有機合成に興味を持つ一助となるのではなかろうか。
「理科系の作文技術」
薬学部の学生は、絶え間なく実習があるため、レポートを書く機会が多い。本書は、何をどのように書けば正確な文章を書けるか教えてくれる。
以上のほか私が無機化学も担当しているので「生命の無機化学」など講義を補う意味で読んでもらいたい。
又教科書類以外では「自然の哲学」など一読を薦める。
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世界の図書館−1−
カリフォルニア大学
ロー・スクール図書館
経営情報学部助教授
林 弘基
カリフォルニア大学(CALバークレー)のロー・スクール図書館について、その概略と学生の利用状況をハンドブックや私の体験などから紹介してみようと思います。CALは、1868年の創設当時学生がわずか200人弱であったが、今日2万9千人で、そのうちの850人がロー・スクール(1882年設立)の学生です。図書館は本館(Main library)と分館(branch library)が22あり、ロー・スクール図書館は分館のひとつです。 図書館の蔵書は約575万冊、定期刊行誌が10万余りで、そのうちの約73万冊が本館と分館とでオンライン化されています。ロー・スクール図書館には定期刊行誌を含めて41万5千余冊あり、5万冊がオンライン化されています。利用対象者は、学生、教職員、卒業生、研究者などで、利用する際、館内では、動物、飲食物の持込みや呼び出しの禁止など8箇条のルールを遵守することになっています。開館日および時間は、月曜日〜木曜日が9:00〜22:00、金曜日、土曜日がそれぞれ18:00、17:00までです。ただし、期末試験や国家試験が近づくと、試験終了までの一定期間開館日時の変更や延長があります。本の貸出期間は、普通制限されていないものは1ヶ月、特に1日貨出が認められる本の場合は翌日の開館後1時間以内に返却しなければなりません。
学生の利用状況は大変よく、瀕繁に利用する学生が多いです。利用の仕方については、概して2つのタイプがあるように思います。第1は、一人で黙々と勉強し、自分が立てた予定や目的を済ますと帰るタイプです。長時間の場合は途中でブレイク(休憩)をとりながら、つまり、新聞を読んだり館外へ出て飲食物をとったりしながら頑張ります。第2は、図書館に入り浸るタイプです。このタイプは自分一人のときは前述のようなブレイクをとりながら頑張りますが、友人がいる場合などには小声で(in a subdued voice)話しかけ相手が応じると、あるいは逆に声をかけられると一緒にブレイクをとったりします。一緒にとる場合は、飲食物のためのブレイクや体を動かしての気分転換ブレイク、たとえば、フリスビーや水泳の誘いだったりします。水泳は自分のタオルや水泳パンツが使用禁止で大学のものを(3種類から)使うことになっています。なお、女子は自分の水着が許可されます。ブレイクは、水泳などの場合でも同じで、30分位でまた自分の席に戻ります。
ウィークデイの夜利用するときは、ブレイクをとることはほとんどありません。学生はこの2つのタイプをかね備えているようで、日によって第1のタイプであったり第2のタイプであったりします。
歴史が浅いとはいえ、本学の図書館には蔵書が定期刊行誌を含めて14万5千冊あり、また館内には、樋口教授が学而2に書いておられるように、広い範囲にわたって本を手にすることができのびのびした雰囲気があるので、諸君も大いに図書館を利用してはいかが!
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アンケートから
昨年度実施したアンケートの結果は前号で報告しましたが、図書館への意見・要望については、紙面の都合上、多くを割愛しました。ここに、それらを追加報告し、今後の努力目標にしたいと思います。(ここでとりあげた意見等は寝屋川本館でだされたものです)
1.図書資料について
→ 昨年度、約1,400冊の理工系図書を学生用として購入。今後も強化してゆく予定です。
→ 今年度から実施。なお、娯楽雑誌等も同時に移設しました。これは、余りにも紛失が多く利用に支障がでていることも理由としてあります。諸君に良識を望みます。
→ 現在、新聞のバックナンバー(過去1ヶ月分)は第2図書室の奥に置いていますので、自由に閲覧して下さい。
→ 毎週、定期的に配列整備していますが、すぐ乱れます。閲覧後は必ず元の場所に戻すように、注意して下さい。
→ 今年度から実施。
2.施設について
3.その他
Refence Corner
相互利用について
――求める資料が図書館になかった場合――
求める資料が本学図書館になかった場合、あなたならどうしますか? あきらめる‥‥‥ちょっと待って下さい! 本館には無くても他の図書館にはあるかも知れません。そんなとき「相互利用」という制度があります。これは大学図書館間で、自館に無い図書資料の利用について、お互いに協力しましょう、という制度です。この制度を利用したいときはカウンターの係員に申し出て下さい。手続きは簡単です。
(1)他館へ出向いて利用したい場合
他の大学図書館へ行って、直接資料を調べたい場合、「図書館利用依頼書」を発行します。この依頼書と学生証を持って相手館へ出向いて下さい。利用に際しては先方の利用規則を守り、迷惑のかからないようにして下さい。
(2)コピーを取り寄せたい場合
まず、必要な資料がどこにあるか調査し、所蔵館がわかれば、「文献複写依頼書」に記入します。後は、図書館で相手館へ申し込みます。コピーは、普通2〜3週間程度で入手できます。このために要する費用(複写料、郵送料等)は依頼者の実費負担となります。
ほかには、図書の現物を取り寄せることもできますが、詳しくは係員にお尋ね下さい。
このように、本学図書館だけで資料を探すのではなく、全国の大学図書館にも目を向けましょう。さあ、みなさんも、自分の欲しい資料を求めて、全国行脚の旅に出てみませんか?ご案内します。 (奉仕係・八木敬子)
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最 近 入 っ た 本
ここでは1月以降に入った本の中から、一般教養的なものを中心に、そのいくつかを選んで紹介します。
新渡戸稲造の本
(「自警録」目次より)
●男一匹
●一人前の人と一人前の仕事
●強き人
●外は柔、内は剛
●心強くなる工夫
●怖気の矯正
●譏謗に対する態度
●世に蔓延こる者は憎まる
●心の独立と体の独立
●人生の成敗
●人生の決勝点
●人生表裏の判断
●広く世を渡る心がけ
●報酬以上の務め
■ 本 館
話の特集図書館 話の特集
読書と社会科学 内田義彦著 岩波書店 (岩波新書 黄版288)
悠久のインド 山崎利男著 講談社 (ビジュアル版世界の歴史 4)
淀川往来 上方史蹟散策の会編 向陽書房
ルポ・アジアNOW 読売新聞社
これからどうなる:日本・世界・21世紀 岩波書店
WOMEN 351:女たちは21世紀を 岩波書店
私大777の未来 国庫助成に関する全国私立大学教授会連合編 勁草書房
ニューメディア用語辞典・日本放送出版協会
世界の絵文字1970−83 桑山弥三郎編 柏書房
おもちゃのセミナー:叙情性と科学性の招待 戸田盛和著 日本評論社
方舟さくら丸 安部公房著 新潮社
三毛猫ホームズの青春ノート 赤川次郎著 岩波書店(岩波ブックレット38)
戦争と愛 上・下 S・タクデイル・アリシャバナ著 井村文化事業社
■ 枚方分館
マイコンによるデータ整理 中束美明著 培風館
図書館活用百科 紀田順一郎著 新潮社
辞典活用ハンドブック 弥吉光長著 出版ニュース社
グッドライフのすすめ ダイヤモンド社 1591
女性の職業と将来性ガイド 自由国民社
使える科学英語の学び方(カセット) 小沢昭弥〔ほか〕著 南江堂
身近な現象の化学 日本化学会 編 培風館
生命思想の系譜 村上陽一郎 編 朝倉書店
健康の化学 梅田博道〔ほか〕著 朝倉書店
ステッドマン医学大辞典 第2版 メジカルビュー社
病院薬局実務大系 全10巻 田村善蔵監修 朝倉書店
漢方薬の実際知識 東丈夫〔ほか〕著 東洋経済新報社
裁判化学 吉村英敏編 南山堂
化学工業会社録1985年版 化学工業日報社
外国語の学習書が新たに約600冊入りました。内容は中国語、インドネシア語、スペイン語をはじめ世界中の言語にわたっています。
電話中国語会話/旅行者のためのドイツ語会話/スペイン語手紙の書き方/フランス語情報事典/250語でできるやさしいロシア語、等
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