乱読のすすめ
経営情報学部教授 樋口 伸吾
最近物故された、文化勲章受章者の小林秀雄さんは、学生のころ読書の対象を、通学の途中に読む本、授業中に読む本、食事中読む本、放課後読む本、寝る時読む本等にわけられて、読書に熱中したという。まさしく乱読の典型というべき生活であった。なかんずく、授業中読書に熱中したことが、文化勲章への近道であったのかもしれない。
うちの学生諸君も、ほかの先生の授業中はそうしないと思うが、私の授業中はひたすら読書にはげむという美風をもっている。大声で警告しても、やんわり注意しても、馬耳東風、悠然と書物に魂を奪われている。やむなく、私は彼らの中から文化勲章受章者のあらわれることを期待しつつ、微(苦)笑して授業を終える。もっとも、彼らの読書対象は主として漫画本であることが、小林さんの場合とまったくちがっている。
というと、私は漫画本を軽べつしていると思われるかもしれないが、とんでもない、漫画は現代文化の基礎のひとつであり、芭蕉の「軽み」の正統な後継者でもある。私の豚児は、行李一杯の漫画本を東大の寮にはこびこんだが、彼はそれが東大漫画化時代の紀元元年であると自慢する。当時、彼と志を同じくし漫画に熱中した連中は、いすれも、まあ世間的にいえば偉くなっているところをみると、漫画に始まり、次第に普通の読書に移り、さらに専門書に進むのが、現代児の自然な発達過程かもしれない。
ところで、新任の私が本学の図書館で感心したことが二つある。ひとつは、事務のかたがたが親切でしかも能率的なことである。他のひとつは、軽薄短小時代の旗手、赤川次郎をはじめとするおびただしい文庫本が並んでいて、いかにものびのびした雰囲気があることである。「薄々の酒といえども水よりは勝る」。教養と関係の淡い文庫本でも全然読書しないよりは勝る。漫画に熱中している一年生諸君も、次第にこの文庫本を楽しみ、さらに専門書に専念するであろう。しかも、その勉学自体を楽しいと感ずると私は確信している。そして、将来社会人となった彼らに会う機会があれば、彼らは頭をかきかき、"先生の授業をもっと真面目にきいておけばよかった"というのが目に見える。しかし、そのように謙虚になるためには、矛盾した話しだが現在の乱読が前提になるのかもしれない。まあ、当分せっせと漫画本を読んでいたまえ。
CONTENTSへ
アンケート特集:図書館への注文
図書館では昭和59年度に入って、3種類のアンケート調査を実施しました。そこに様々な図書館への注文が出されましたので、その概要をここに報告します。貴重な意見ばかりでした。これらを新しい年、1985年の基本に据えてより良い図書館を築いてゆきたいと思います。なお、E科学生・楠君からの寄稿がアンケートに関連するものでしたので、この欄で紹介します。
その1:所蔵検索用端末機について
設問1〜5
内容と回答は次の表のとおりです。
質問事項 | 回 答 | |||
1.所 属 | 学部 | 国際(59) 経情(16) 薬学(9) 教員(2) | ||
年次 | 1年(28) 2年(12) 3年(42) 4年(16) 教員(2) | |||
2.所蔵検索の方法はいかがですか | わかりやすい (29) |
普 通 (55) |
わかりくにい (16) |
|
3.画面表示はいかがですか | 見やすい (67) |
普 通 (30) |
見にくい (3) |
|
4.検索項目は何を使いましたか | 書名 (60) |
著者名 (27) |
分類番号 (13) |
|
5.入力方法でわかりにくい画面がありましたか | なかった (59) |
あった(43)
|
設問6 所蔵検索についての希望・要望
以下に、その主なものを、説明をつけて列記します。
●キーをABC、アイウエオ順に並べてほしい。
端末機設置当時、IBMには指摘のキーボードがまだありませんでしたが、その後、製品化されましたので、現在検討中です。しかし、既存のキー配列が一般には普及しており、慣れれば今のほうが便利とも言えます。
●ローマ字入力→カナ変換のシステムを入れてほしい。
IBMでは要望の変換システムをオンラインで使用できるように開発中です。従ってそれが完成した時点で実現したいと思います。
●端末機台数をふやしてほしい。
次年度には増設を予定しています。
●国際では1年の時、コンピュータの実習が1日しかなく、一般的な扱い方もよくわからない。検索条件設定とか方法設定という言葉自体もわかりにくい。変更してほしい。
適切な言葉があれば変更します。また扱い方については、マニュアルの整備とともに、システム自体の改善も進めていきます。
●出版社名で検索できるようにしてほしい。
次年度中にはできる予定です。
●本の内容をもっと詳しく入れてほしい。
これは、外部の図書データ(国会図書館作成の目録=Japan Marc等)を導入することなどにより、充実を図ってゆきます。
●所蔵しているのに、無いと表示された。
検索の仕方によって表示されない場合があります。例えば、@双書名のある図書は双書名でしか検索できず、書名ではできない。A著者が複数の場合、最初に表示されている著者からでしか検索できない。B翻訳書の場合、著者名は原綴りで、姓・名の順になっているので、カタカナで検索しても出てこない(例:ヘルマンヘッセ――Hesse,Herman)。このうち@とAはコンピュータの記憶容量拡大時(次年度予定)に改善されます。Bについても改善策を考えています。
検索の仕方が正しくて出てこなかった場合、それはごく一部ですがデータの未入力ということになります。現在、これを補う処理を進めており、今年度中には完了します。
その2:館報「学而」について
はじめに
このアンケート調査は、創刊号への生な印象を聴くことを目的としたため、敢えて回答方法を記述式としました。回答して下さった方は少数でしたが、それぞれの声で印象を聴かせてくれました。以下にその要約を記して、今後の紙面作りの参考といたします。
設問1 創刊号についての感想
好評なものとしては「非常に良い」「デザインは簡素で無難、紙質も安っぽさがなく、ちょうど良い」「図書館らしい落書いた感じでいい」「いろいろな分野からの方々の意見が掲載されていて良かった」「推薦図書の欄が一番おもしろく参考になった。毎号2ページぐらい扱ってほしい」等。
不評なものでは「内容が固い」「上等すぎて、かえって読みにくい」「活字を変えてほしい」、なかには「メリットがない、ムダ、ゴミがふえるだけ」といった厳しいものもありましたが、これは励ましの言葉と解し、批判のとおりにならぬよう努力します。
要望としては「サイズが小さいため量不足頁をふやしてほしい」「意見をどのようにして寄せたらいいかわからない」(これについては、意見箱を寝屋川本館は図書館前の掲示板の位置に、枚方分館は図書室内に設けました。ご利用下さい)「月刊にしてほしい」等。
設問2 今後希望する内容・企画等について
・新刊図書の案内 ・学生がすすめる図書 ・授業の参考図書特集 ・おもしろい本の欄 ・直接読むことができない国会図書館などの秘蔵書についての特集 ・読書コンクール ・創作的な欄(読んで参考になるだけでなく、おもしろいと思わせ、読もうとさせる欄)・先生の学生時代の楽しい話や図書館職員のエピソード ・「大学」および「学生」「学生生活」に関する図書紹介 ・字をへらし写真や軽易なマンガをのせてほしい 等。
その3:枚方分館の利用について
はじめに
この調査は枚方分館の利用状況の把握を目的として10項目の質問を設けて実施しました。紙面の都合上、そのいくつかを選んでここに報告します。
設問3 図書室を利用する目的は何ですか
図書の館外貨し出し(35%) 館内での図書閲覧(38%) 自習室として(24%) その他(3%)
設問5 閲覧席が満席で利用できなかったことがありますか
よくある(6%) ときどきある(36%) ほとんどない(36%) まったくない(22%)
設問6 ある実習期間中、当該分野の図書が貸し出しされていて、利用できなかったことがありますか
よくある(71%) ときどきある(25%) ほとんどない(2%) まったくない(2%)
設問8 実習期間中、よく利用する特定の図書は貸し出さないはうが良いと思いますか
良い(36%) どちらでもよい(38%) 良いと思わない(26%)
設問10 図書館に希望すること
多かったものの順に列記します。
1.図書の増加 (@専門書 A雑誌・軽い読物 B文芸書等、専門外の本 C文庫本)
2.コイン式複写機の設置――先月、12月に実現
4.閲覧席数の増加――次年度増設予定
5.日曜開館
6.貸し出し期間の延長――次年度実施予定
7.その他(図書室とは別に閲覧室を設置してほしい。個室を利用したい。等)
おことわり
「所蔵検索用端末機について」および「館報・学而について」のアンケートで、図書館への要望・意見を数多くいただきましたが、ここでは割愛し、別の機会に報告させていただきます。ご了承下さい。
CONTENTSへ
素晴らしい本との出会いを求めて
薬学部・衛生薬学科1年 中野 香
図書館というものが今も昔も、暖かい日差しのもと、読書に、語り合いに、くつろいだ贅沢な時間を過ごすアカデミックな空間であるということに変りはないと思います。暮れなずむ生駒の山並を眺めていると、鉄筋校舎の立ちならぶコンクリートジャングルの中、私の心は和んできます。私にとって心のオアシスであるこの場所が大好きです。
現在、摂大図書館の蔵書数は決して多いとはいえないでしょう。しかし、大学自体まだ産声をあげて間もないのですから無理もありません。次々に新しい物が創り出され、目まぐるしく移りゆく現代において、古い前世紀の遺物の様な本が何冊あっても仕方ありません。それよりもむしろ、特に自然科学分野においては少しでも時代を先どりし、新しい情報や豊富な知識をわれわれに与えてくれる本が一冊でも多く増えてくれることを声を大にして要望したいと思います。
学生時代の限られた時間に、あるときふと開いたページの片隅の、ある言葉、ある一句の為に「そうだったのか」とうなずける、そういう出会いが−つでも多く得られる様に私達も最大限に利用してゆきたいと思います。そして、未だに教室で学ぶ事のみを学問ととらえがちな片寄った考えは一刻も早く拭い去り、是非もう一度読みたいと思う本や、一人の作者に傾倒し全集を読破するといったエネルギーが自然と湧いてくる本に出会うこと、これは学生にとって本当に幸せなことではないでしょうか。そんな機会を与えてくれる図書館であって欲しい、というのが私の切なる願いです。
CONTENTSへ
Reference Corner
レファレンス・サービスをご存じですか?
簡単に言えば、利用者からの質問に対して適切な図書資料を紹介するサービスのことです。
例えば、あるテーマでレポートを書かねばならないが、必要な資料をどの様にして探せばよいのかわからない、といった場合、著者や書名がわからなくても、そのテーマの主題から目的にあった本を探し出すことができます。仮に、テーマが「都市公害」についてだとしたら、その主題である都市工学(分類519)、都市問題(318.7)、環境衛生(498.4)、などからアプローチしてゆきます。雑誌でしたら「環境技術」「用水と廃水」等があります。そして、その中から適当なものを選んで紹介します。又、人物を調べる場合でも、人名辞典や日本紳士録など、その目的によっていろいろな資料があります。ほかに事例をあげますと、@英文で履歴書が書きたい→最新英語情報辞典を、A町の歴史が簡単に知りたい→角川日本地名辞典を、B各種団体の住所・連絡先を調べたい→朝日年鑑を、C国際バカロレア制度について→国家試験資格試験全書1984年版を、Dカミキリ虫の生態を出来るだけ詳しく、写真入りの資料がほしい→原色日本昆虫図鑑では簡略すぎるので、現代生物学大系第2巻(無脊椎動物B)を。
この様にして資料の紹介を行っています。以上は例の一部にすぎません。疑問解決の1つの方法として、このレファレンス・サービスを活用して下さい。カウンターでは、多種多様な質問をお待ちしています。 (K.Y.)
CONTENTSへ
卒業後も図書館は利用できます
この春、卒業する諸君!学園図書館ならどの館でも利用できます。
「図書閲覧願い」(所定の用紙)で申し出て下さい。仕事での調査・研究にもどうぞ!
最近入った本
ここでは昨年11月以降に入った本の中から、一般教養的なものを中心に、そのいくつかを選んで紹介します。
館 | 書 名 | 著 者 | 出版社 |
本 館 |
カルサヴィーナ | 井上 鑑 | 冬樹社 |
若者はなぜ新・新宗教に走るのか | 室生 忠 | 時の経済社 | |
京都大事典 | 奈良本辰也ほか | 淡交社 | |
パリ史の裏通り | 堀井敏夫 | 白水社 | |
中国の人と思想<9>王陽明:百死千難に生きる | 山下龍二 | 集英社 | |
日本の名山 全12巻 | 第一アートセンター編 | ぎょうせい | |
エクセレントカンパニー:超優良企業の条件 | Peters,T.J.〔ほか〕 | 講談社 | |
インドネシアの民話 | De Vries, Jan編 | 法政大学出版局 | |
映画、わが自由の幻想 | Bunuel, Luis | 早川書房 | |
史上最高の投手はだれか | 佐山和夫 | 潮出版社 | |
野外へ出かけよう | 木庭修一〔ほか〕 | ぎょうせい | |
世界なぞなぞ大事典 | 柴田 武 編 | 大修館書店 | |
字統 | 白川 静 | 平凡社 | |
英語―何をどう書くか | 松本道弘 | 講談社 | |
誤訳の世界はワンダーランド | 古賀正義 | ぎょうせい | |
火山島 全3巻 | 金石 範 | 文芸春秋 | |
輝ける碧き空の下で | 北 杜夫 | 新潮社 | |
自由学園物語 | 羽仁 進 | 講談社 | |
枚 方 分 館 |
世界科学大事典 全20巻 | 講談社 | |
科学者のための英文手紙の書き方 | 黒木登志夫〔ほか〕 | 朝倉書店 | |
生命の最前線 | 増永俊一 | 春秋社 | |
生物学から文化へ | Ruffie, Jacques | みすず書店 | |
臨床検査技師国家試験問題集<'85年版> | 医学書院 | ||
環境科学大事典 全20巻 | 講談社 | ||
石油文明の次は何か | 槌田 敦 | 豊文協 | |
INS社会の読み方 | 前野和之 | 日本実業出版社 | |
テクノストレス | Brod, Craig | 新潮社 | |
歩きながら考える | 矢内原伊作 | みすず書房 |