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伝記を読む――赤裸々な人間性の告白

副学長 奥島 啓弐
(工学部・機械工学科教授)

 伝記も文学の一分野だが、日本ではその数は少ない。もちろん『将門記』や『義経記』などはあるが、これらはいづれも物語であって正統な伝記とはいいがたい。西洋では、紀元前ギリシャで編まれた『プルターク英雄伝』をはじめ数々の名作がある。『プルターク英雄伝』といえば、私達年輩の者は幼い時血湧き肉躍る思いで読んだものである。ちょうど近頃の子供達が、『キュリー夫人伝』や『野口英世伝』を読むように。
 ところで伝記には、本人の著わしたいわゆる自伝と、他人の著わしたものとがある。後者の場合、多くはその人物の顕彰のためのものが多く、必然的に偶像化されることが多い。従って教育的効果はあろうが、面白味にかけることは否めない。その点、自伝となるとその人物の思想がじかに伝わってくるだけに興味はつきない。日経新聞の『私の履歴書』もその意味で好読物であるが、どこかに読者を意識している所がなくもない。私は、日本人の自伝としては『福翁自伝』『高橋是清自伝』および『寒村自伝』などを代表的名作として挙げたい。『福翁自伝』では、今や聖徳太子に代って一万円札の象徴となった福沢諭吉が若い時から酒癖が悪く、「酒のためには有らん限りの悪いことをして随分不養生をしました」と告白したり、『高橋是清自伝』では、何度も大蔵大臣をつとめたほどの近代の大政治家が、壮年時に芸妓屋の二階で女の長襦袢を着て居候をしていた話などを読むと、この偉人たちがぐっと身近になってくる。『寒村自伝』は、我国における社会主義運動の黎明期を勉強するには恰好の書物だが、同時に荒畑寒村の人がらがにじみ出て、好個の読物となっている。
 これらの伝記が人の心をうつのは、これらの人々の赤裸々な人間性の告白にある。私などは凡人中の凡人で、常に煩悩になやまされているが、偉人といえども同じ悩みを持っていることがわかり、救われる思いがする。先年なくなった典型的明治人間の石坂泰三氏ですらその自伝の中で、妻子のことを考えると六十を過ぎるまで自分の主張に生きる勇気がなかったのを後悔していると語っている。誠に悲痛な告白である。しかしこれらの人々に共通して言えることは、この人達がその人間本能に打克つだけの理性と教養を身につけていたことである。若い人達の人生指針として是非読んでもらいたいものである。
※Plutarchos(C.50〜C.120)古代ローマ時代のギリシアの歴史家。『英雄伝』は、ギリシアとローマの偉大な政治家・将軍の伝記。プルタークは英語読み、ギリシア語読みではプルタルコス。
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特集! 就職戦線と図書館

 大学が学問をする場であるということは言うまでもありません。同様に、私たちが生きていくうえで、仕事をしなければならない、ということもまた自明のことです。そこで今回は就職部次長のお話しを聞くとともに、就職関係の図書を紹介しましょう。
 1年次生諸君も、遠い先のこととは思わず、仕事について、しっかりと考えて下さい。

いかに図書館を利用するか

就職部次長 富 敦正

 「君は大学図書館をどのように利用していますか」と面接試験で聞かれた学生がいる。
 幸いその学生、K大学経済学部のT君は陸上部円盤投げの選手として、放課後は練習に時間をとられるために、講義と講義の間を慢然と過ごさず、図書館で自らの教養を高めていたので、返答に困ることなくむしろ相手側が感心したらしい。
 又T君は毎早朝のNHKラジオの英会話もテキストを手に欠かさず練習をして、充実した学生生活をしていたので、5年前に第一志望の松下電器貿易へ軽く入社し、その直後英検1級を取得している(合格率は2%余、2級は23%余、3級は大学生としては論外)。
 又第2語学は在学中からのスペイン語を選び、すでに完全にマスターし、単独で海外営業を経て現在アメリカ松下で1年間の研修をうけている。
 K大学が第3志望であっただけに、就職で勝ってやろうの一念が実を結んだものである。
 大学入試までは共通一次のお陰で偏差値という化け物にふり回されたかも知れぬが、殆どの就職試験は大学生としての最低の基礎学力さえあれば、あとは人物本位の採用である。就職は偏差値では絶対にない。
 我国最大の歯科医療機器販売会社のモリタの役員面接は、昨年より大学名を伏せて行っているが、いわゆる有名大学の学生がどんどん不合格になるらしい。まさに人物本位の典型である(勿論その前に国、英、数の基礎学力テストはある)。
 就職部へ相談に来る学生に図書館の利用度を聞いてみると、テスト前のある時期を除くとあまり利用していないのに驚く。
 勿論就職指導の一つにしている英検の受験参考書やヒヤリングテープの貸し出しがあることも、情報処理技術者試験の参考図書のあることも知らない諸君も多いのではなかろうか?
 高価な学術書や参考書を親のスネをカジッて買うだけ買って利用せずにボケーッと漫画のような人生を過ごすより、無料の図書館を利用してT君のようにガメツく稼ぐ方がずっと生き甲斐があろうというものだ。
 前向きで明るく低学年より図書館に親しみ、この大学に入ってよかったという結果を、諸君自らの努力で勝ち取れば、就職の時期になって何ら慌てることはない。
 この大学は毎学年留年制のある厳しいユニークな大学だ。教職員の学生指導の真剣な態度は他に例がないと信じている。
 開学以来急成長中であるのも当然と思う。
 諸君と手を携えて大いに誇りと自信と夢を持とうではないか。
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就職関係図書案内
 ここでは寝屋川本館にある図書のうちから、その一部を紹介しました。()内の数字は図書の分類番号を表しています。また就職部にも関連図書が多数あります。積極的に利用しましょう。

仕事を選ぶ本(366.29)

女子学生のために(366.29)

英検関係(830.79)

情報処理関係(549.92)

〈雑誌〉

就職部にある本

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一冊でも多くの資料を・・・

国際言語文化学部3年 鈴木 淳子

 現在の摂大図書館はまだまだ小規模だと思います。工学部等に関することはわかりませんが、私の専攻する国際言語文化学部に関していうと、この学部はアメリカ・イギリス・中南米・中国・東南アジア等の地域に分かれ、"言語"だけでなく"文化・歴史・地理・経済・政治・社会"など、深く突っ込んで学習します。教科書だけでは不充分なので一番手軽に利用できる図書館に足を運びます。しかしこの学部はできて間も無いこともあり、蔵書数が特に少ないです。レポートの課題や前もって教えてくれる試験問題に関する資料を探しにみんなが図書館に行くので、早い者勝ちです。本はすぐなくなってしまい、資料不足でみんなが似たような内容のレポートや、解答を書いています。
 来春には国際言語文化学部から第一期卒業生がでることになり、今四年生は卒業研究に取り組んでいます。先生方によってゼミ内容も異なり大変だろうと思います。四年生、三・二・一年生、そしてこれから入学してくる後輩達が図書館でゆったり学習できるように、講義や研究内容に伴った資料を一冊でも多く揃えてほしいと思います。
 ところで普段の図書室は淋しすぎると思いませんか。活気があるのは試験前だけです。正課で必要な勉強のためだけではなく、その他教養を深めるための場として、またお昼寝などする場(?)としても、みんなもっともっと利用しましょう。
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Reference・Corner――資料紹介 @
論文・レポートを書くには
――いくら書いても、ダメなヒトへ……

 「文は遣りたし、書く手は持たず」――昔は恋文が書けぬようでは恋愛もできなかった。みじめな限りである。と、今書き出したものの、「書く」というのは難しい。梅雨のせいか頭も湿っていて、なかなか筆が進まない。みじめである。
 諸君もレポート等で同じ思いをしたことがあるだろう。期限がきてしかたなく提出。なにが言いたいのか自分でもわからない。何度繰り返してもうまく書けない。こんな諸君にぜひ読んでいただきたい本があるので紹介しよう。保坂弘司書『レポート・小論文・卒論の書き方』である。1章では資料探し、辞書選び、全体の文章構成等「書く」基本的なルールを説明。2、3章では小論文、卒論について書かれ、とくに2章では入社試験における小論文にもふれ、就職試験にも役に立つ。全学部生向きの良書である。また、前号(「学而」3)の特集(「私のすすめる必読書」)で紹介のあった、木下是雄著『理科系の作文術』も、わかりやすくまとまった本で、理系の諸君には座右の書といえる。
 中途半端に「書く」前に、一度じっくりと読んでいただきたい。そして基本をマスターして、うまく、小粋に書いてみようではないか。でなければ、一生涯まったく同じ繰り返しですぞ!(枚方分館・北村芳孝)

  1. 杉原四郎〔ほか〕著 「研究レポートのすすめ:卒論・ゼミ論のまとめ方」本館・分館とも−377.5K
  2. 佐藤孝一著 「博士・修士・卒業論文の書き方」本館・分館とも−377.5S
  3. 佐藤忠男著 「論文をどう書くか:私の文章修業」本館−081K 分館−816.5S
  4. 清水幾太郎著 「論文の書き方」本館−081K 分館−816.5S
  5. 田中義磨〔ほか〕著 「科学論文の書き方」本館・分館とも−407T
  6. 0'Connor,M.〔ほか〕著 「英語科学論文を書く人のために」本館・分館とも−4070
  7. Turabian,K.L.著 「英語論文の書き方」本館・分館とも−836.5T

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'84 希望図書購入一覧

 ここに紹介する図書は、昨年度、学生諸君からの「希望図書購入申込書」を受けて購入した図書です。多くの人たちが、図書館の蔵書構成に参加することを期待しています。

■本館 30冊

■枚方分館 22冊

講義の参考書 約300冊購入!
 図書館では「昭和60年度講義要綱」に紹介されている<参考書>類を揃えました。講義を十分理解するために活用して下さい。

学生諸君へ 課題を与えられたときは
 学生諸君が、レポート作成のために資料をさがしに来ますが、総合大学になって間もないこともあって、関連資料が少ないということがしばしばあります。課題を出されたら早い目に図書館に足を運んで下さい。資料が無ければ図書館で極力購入するようにしたいと思います。

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数字で見る 図書館の10年

 本学が開学して、すでに10年になりますが、この間に学部が増設され、施設・設備等も充実し、発展の一途をたどっています。図書館においても、その変化はグラフや表でもわかるように目をみはるものがあります。かつては、工学系の図書がほとんどでしたが、現在では人文・社会科学系の図書が4割を越えています。また、昭和57年度には、コンピューターが導入され、「図書館総合情報管理システム」がスタートしました。
 しかし、学生諸君からの強い要望があるように、図書館の拡張が急務の課題としてあります。

開学当初とS.59年度との比較
S.50年度 S.59年度 増加率
図書館総面積 729m2 2,482m2 3.4倍
蔵書数 25,003冊 148,249冊 5.9倍
年間受入冊数 3,850冊 21,208冊 5.5倍
雑誌種数 268種 1,423種 5.3倍
貸出冊数 851冊 16,746冊 19.7倍

学生数
494人
(1,732人)
4,216人 8.7倍
(2.4倍)
※ 学生数は各年度末の数字であり、( )内の数字は工学部完成年度(S.53年度)の学生数と、それによる倍率である。

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昭和59年度図書館利用統計

(参考)他大学との比較
 近隣10大学の、学生1人当りの貸出冊数は平均で3.3冊です(昭和58年度統計:「日本の図書館1984」による)。本学は全学平均3,9冊ですから、10大学の平均をやや上回っていることになります。
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