人生の転機
教職教室 教授 村田 孝次
当然のことながら、すぐれた学者は真面目で勤勉な幼少時代を過ごしている人が多い。しかし一方、将来にとても期待のかけられないような人生のスタートを切りながら、世界一流の学者になった人も、決してまれではないようである。
実験心理学を新しい学問体系としてうち立てたドイツの碩学ウィルヘルム・ヴントは、幼少時は勉強よりも空想を好み、ギムナジウムの最初の学年で落第した。級友とのおりあいがわるく、教師からしばしば平手打ちをくわされ、ついに学校をとび出してしまった。
条件反射学の父イワン・パヴロフは、ロシアの農家に生まれたが、7歳のときに頭に大怪我をして、11歳になるまで学校に入ることができなかった。
刊行後ほぼ100年になるにもかかわらず、今日でもアメリカで愛読者の最も多い心理学書といわれている『心理学原理』を書き、その後はプラグマティズム哲学の開祖として名声を博したウィリアム・ジェームズは、幼少時から病弱で、健康な時代は生涯でもきわめて短かった。また、若いころは自分の才能を発見しかねて、一時は画家を志したが、師からその才能はないと諭されて、この道を断念した。
行動主義によって心理学界に新風を吹き込んだジョン・ワトソンの幼少時代はさらに劇的である。ワトソンは幼少時代、手のつけられない腕白で、非行を重ねていた。喧嘩に明け暮れ、何回か警察の厄介にもなっている。彼は非常に厳しい母親の命令で、いやいや神学を専攻するために大学に入ったが、母親が死ぬと早速大学をやめてしまった。その問題児ワトソンが、若冠30歳でジョンズ・ホフキンス大学の教授となり、さらに37歳には、世界の心理学界をリードするアメリカ心理学会の会長となってしまったので、彼の昔を知る郷土の人たちはあきれ返ったということである。
こうした人たちには、いつの時期か(おそらく青年期)、大きな人生の転機があったに違いなく、その転機に際して、過去のマイナスもプラスに転じる知恵と意志が働いたことは、ほとんど疑う余地がない。
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君はいま何を読んでいるだろうか。六人の先生、職員の方々から、最近読んでおもしろかった本、また、かつて読んでおもしろかった本を紹介していただきました。君もぜひ味わってみよう。本はすべて図書館にあります。
■『知的生産の技術』梅棹忠夫著(岩波新書)
■『発想法』『続・発想法』川喜多二郎著(中公新書)
工学部・経営工学科 助教授
黒沢 敏朗
大学では「知識はおしえるけれど、知識の獲得のしかたは、あまりおしえてくれない。」(だから)わたしがかこうとしていることは、「要するに、いかによみ、いかにかき、いかにかんがえるか、というようなことである。それは、一種の『勉強のしかた』に類することかもしれない。」このような内容をもつ『知的生産の技術』は今から16年前に書かれているが、その後に続く文章の書き方や作文の方法など、いわゆる知的創造活動の分野における原典というべき本である。さらに一歩進んで、それでは「バラバラのデータをいかにしてまとめるか」という点を考えたい人には、川喜田二郎の著作の一読をお勧めしたい。
■『スポーツと脳のはたらき』久保田競著(築地書館)
保健体育教室 講師
荒木 武
京都大学霊長類研究所の教授である久保田競氏は47才の煩から健康スポーツであるジョギングを実践しており、氏の専門である神経生理学の視点からスポーツと脳との関係についてまとめられたのが『スポーツと脳のはたらき』という本である。本書は自分の生活習慣の中にスポーツを取り入れて行なおうと呼びかけたスポーツのすすめの書でもある。
剣道や一般体育実技を指導している私にとっては、本書に出てくる前頭前野の働きの話や、右脳と左脳の働きの違いを興味深く読んだのである。この本は一般人向けに解りやすく説明してあるので、スポーツや健康に関心のある人、実際にスポーツを行なっている人には是非とも一読をすすめたい書である。
■『ストロング・メディスン』アーサー・ヘイリー著(新潮社)
■『生命かがやく日のために』斉藤茂男編著(共同通信社)
■『スケボーに乗った天使』田中桜子 取材 浜田幸 文(ダイナミックセラーズ)
薬学部・衛生薬学科助手
夏木 令子
『ストロング・メディスン』――製薬業界の30年、人間の健康と病気、生と死にかかわりを持つ熱いビジネスの戦場で、新薬の発見を描く、この主人公がニュー・ジャージー州、フェルディング=ロス製薬のセールスウーマン、シーリア、彼女は男性中心の保守的な業界にあって、さまざまな障害と偏見に出会い闘う、良識と直観力そして、強烈な野心を秘めて。
『生命かがやく日のために』――ダウン症の赤ちゃんは生きてちゃいけないんですか。どうして!人間の生き方について、否応なく問いかけてくる恐ろしいルポです。自分だったら・・・・・・?
『スケボーに乗った天使』――アメリカ東部のペンシルバニア州ビーバー郡にあるアリキッパの町に、両足がないという大きなハンデを背負いながらも、信じられない程、明るく、強く、生きるケニー少年、涙ではない微笑を産む感動のルポ。
■『コーラを聖なる水に変えた人々』 R・ポサス、清水透著(現代企画室)
■『ピラミッド神殿発掘記』大井邦明著(朝日新聞社)
■『メキシコと日本の間で』中岡哲郎著(岩波書店「世界」に1985年3月から連載中)
国際言語文化学部 講師
篠原 愛人
『コーラを聖なる水に変えた人々』は、「インディアス群書」(全20巻。既刊5刊)の1つで、激動のメキシコ革命に巻き込まれながら生き抜いたインディオの父と子の証言。言わば一庶民の目で見たメキシコ現代史で、この弱者の視点は同群書を一貫している。同社刊の『インディアスを〈読む〉』とともにラテンアメリカ理解に不可欠と言えよう。
『ピラミッド神殿発掘記』の著者はマヤ文明に惹かれ、自腹を切って発掘に参加し、10年以上もメキシコに住みついた考古学者。最初は片時も辞書を手離せなかったのに、後には発掘隊の指揮をとる。現場でのトラブルをどう解決するか。発掘が進むにつれて古代史のイメージがどう変っていくか。ワクワク読めてしまう。
『メキシコと日本の間で』は1年間メキシコで客員教授をした著者が専門の科学技術史の立場から展開する日墨比較文化論。19世紀末にほぼ同時に近代化の道を歩み始めた両国になぜこうも差がついたのか。第三世界にとって真の近代化とは何か。含蓄に富む、文句なく面白いエッセーである。
■『漢語の知識』一海知茂著(岩波書店)
■『君たちの生きる社会』伊東光晴著(筑摩書房)
経営情報学部 講師
井澤 裕司
世間一般の常識を頼りに、自分の経験や想像力の及ぶ範囲で物事を判断していると、とんでもない間違いや誤解を生んでしまいます。良書は読者の経験を補い、想像力を豊かにすることで、このような誤りを正してくれるものですが、そのような可能性を持った本の一つとして、『漢語の知識』をあげておきましょう。
例えば、「時に及んで当に勉励すべし、歳月人を待たず」という陶淵明の詩を、日本語の「勉強」のの意味を思い浮かべて読んでしまうと、教訓臭いものになってしまいますが、本来、勉強、勉励という中国語には、無理をしてでも思い切って遊ぶ、楽しむという意味があることを知ると詩の持つ迫力が一変します。このように漢語が本来外国語であることを忘れて、日本人としての常識で漢文を読んでしまうと、いかに誤解を生じてしまうかをこの本は教えてくれます。
同様に、世間の常識なるものに振り回されないために『君たちの生きる社会』も併せてぜひ読んでみてください。
■『世界の街角実感レポート』日商岩井広報室トレードピア編(新潮社)
学生部・学生課長
牛込 竜一郎
日商岩井の海外駐在員が海外オフィスにおいてレポートした街角情報が満載されている。
軽い茶飲み話のようで意外と知られていない興味深い話題がたくさんある。
商社マンらしく話の中心は、各地の道路事情、交通違反の扱い、電話事情、
ゴルフの話、そして飲食の話と日常生活に密着しているものが多い。その中のいくつかを紹介すると ハンブルグ;4マルク均一のタバコ自販機 ミラノ;経済的な市電、バス、地下鉄共通切符 アテネ;名物建てかけビル リマ;空からゴミが降ってくる ボンベイ;3LDKのアパートの家賃がなんと40万円。
とにかく、世界は広い。ご一読をすすめます。
ジャカルタ 国立図書館 &
アメリカ コーネル大学エコールズ・コレクション
国際言語文化学部 助教授
猪俣 愛子
国立図書館
インドネシア最大の図書館は、ジャカルタ市中央都の独立広場に面する国立博物館の一角に居を構えている。この建物は植民地スタイルの白亜館で、正面の前庭には19世紀にタイのチュラロンコーン大帝が訪問した際に記念に贈られた象の彫刻が飾られている。それに因んで「象の館(gedung
gaja)」とも呼ばれている。この博物館ならびに図書館は、1778年にオランダによって設立されたバタビア学芸協会の付属機関として発足したものであるが、現在ではインドネシア共和国政府の教育文化省の管轄下におかれている。博物館への入場は有料だが、図書館を長期にわたって利用したい者には、申請すれば通行証が発行される。私は大学院生だった1972年から1973年にかけての1年間をこの図書館通いに費やしたなつかしい思い出がある。ここには、植民地時代の文献はもちろんのこと、私の研究テーマである日本軍政時代の新聞、官報、雑誌などの貴重な資料が所蔵されており、私は連日それを読みあさったものである。天囲の高い植民地スタイルの石造建築は、灼熱の太陽の下から一歩中へ入るとひんやりして身がひきしまる。書籍にしみついたカビ臭いにおいがツンと鼻をつく。籐で編んだ椅子は涼しいけれど南京虫のお気に入りの住居だ。本はすべて閉架式で旧式のインデックス・カードで調べて請求する。しかし目録にはあっても行方不明になってしまっている本が多いのは残念だ。書籍の保存状況は一般に非常に悪い。この図書館は月曜を除いて毎日朝8:00から開館しているが、南国の習慣から午後は平日でも2:00には閉館してしまう。
コーネル大学 エコールズ・コレクション
インドネシア(東南アジア)関係の蔵書ではもう一つ忘れてならないのが、アメリカ、コーネル大学東南アジア・プログラムのエコールズ(旧ワッソン)・コレクションである。同プログラムは、1950年にロックフェラー財団の援助を得て設立され、それ以来すでに、240名の博士を世に送り出している。エコールズ・コレクションはこの東南アジア・プログラムの創立期から貢献され1982年に急逝されたエコールズ教授(私もインドネシア文学の講義を受けた恩師である)を記念して名づけられたものであり、オーリン・ライブラリー(中央図書館)の一角にある。ここは、朝8:00から夜12:00まで開館していて授業終了後もたっぷり利用できるため便利である。同コレクションの特色の一つは、日本軍政関係の文献の豊富さであり、その点ではジャカルタの国立図書館やオランダの文書館をも凌いでいる。ただしその多くは、「貴重本」として分類され、ロックされた小部屋の中でのみ閲覧を許されている。しかし一般に外部に対して決して閉鎖的ではなく、インター・ライブラリー・ローン制度による貸し出しや、複写依頼に対するサービス等も完備している。
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読書して、「青春山脈」を縦走しよう
経営情報学部 2年 山田 隆浩
最近の調査によると、大学生の活字離れが進んでいるらしい。これは非常に残念なことです。なぜなら、多感な青春時代に、偉人・英雄の伝記に読み耽ったり、或いは古典文学を読んだりした経験のない人は幸福とは言えないでしょう。本は、感受性の鋭い青年期に読んでこそ大きな意味があります。小学校や中学校以来、伝記を読んだことがないという人がいるかもしれませんが、伝記について特に書くのには理由があります。私達が摂取する知識は、偉人(先駆者)の功績に負うところが大きいのですが、その人の功績を理解することは、なかなかできないものです。しかし、一人の人間が歩んだ人生の行程をみるとその功績が納得できることが多いのです。つまり、自分の知識に根が生え、奥行きができるので、知識が生きたものになります。こうした根の深い知識は、もし知識としては忘れても、その根が残って新しい知識への潜在力になるでしょう。
大学生活を通しての「めぐりあい」は、価値が付けられないほどすばらしいものです。読書もまた「めぐりあい」だと思います。本を通じて著者の考えに接し、疑似体験をすることによって何百年・何千年前の出来事や、はるか遠くの世界のことが見えてきます。それは私達の心を豊かにしてくれます。本を読む人は、読まない人に比べて、何倍も有意義な人生が送れるでしょう。
学生時代は、二度とはきません。いっしょにこの「青春山脈」を縦走しようではありませんか!いつか図書館で、お逢いしましょう。
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資料紹介A うまく話そう ――えーと、あのー……、その……
男のしゃべりはみっともない。つまらないことをペラペラしゃべるようでは、男の沽券にかかわるというのである。しかし、いまや男女平等の世の中、けっしてそうではないようだ。男女ともまことによくしゃべる。結構なことだと思う。
ところが、いざあらたまった話となると、こうはうまくいかない。あがってしまって、しどろもどろ。なかなか筋道をたてて、思ったとおりにはしゃべれないものである。誰もが経験することであるが、こんな諸君に、今後なにか事あるごとにぜひ参考にしてほしい本がある。
平井昌夫著『話の事典』である。話し方のコツにはじまり、日常会話、あいさつ・式辞の話、実務社会での話、話し合いと会議、大ぜいの人びとへの話など、まさに百科事典ともいえる豊富な内容である。また、最後には話の実例ものっており便利な本である。
「手足を使ってわが身を守ることができないのは恥ずべきことであるのに、身体を使うことよりもっと人間にとって本来的である言論によって、身を守り得ないのが恥ずべきでないとしたら、おかしなことだ(アリストテレス『弁論術』1巻1章より)」
雄弁は人生の一つの武器でもあり、生活に潤いをももたらす。あまり模範的になりすぎず、個性的な話術を身につけ、ウィットに富んだ充実した人生を送ってほしいものだ。
<その他の参考資料>
1.『人生読本 会話術』(河出書房新社)武田泰淳〔ほか〕著
2.『対話のレトリック』(講談社現代新書)向坂寛著
3.『説得術』(講談社現代新書)増原良彦著
4.『講義・講演の話し方』(同文館)坂川山輝夫著
5.『自己紹介100のポイント』(実務教育出版社)永崎一則著
6.『会議の技術』(ダイヤモンド社)野口音光著
(枚方分館・北村芳孝)
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君のコピーは著作権法違反だ!?
先日、カウンターで工学部学生Q君からコピーと著作権法との関係について質問をうけました。以下はその応対をした館員AとQ君のやりとりです。参考のために紹介しておきましょう。
Q:
この本をコピーしたいのですが、最近新聞などでよく著作権法についての記事をみかけますね。少し著作権法について説明していただけませんか。
A:
……そうですね。まず、著作権法の目的から説明しましょう。ごく簡単に言うと、「著作者の権利を守りつつ、一方で著作物の公正な利用を促す、そうして文化の発展に寄与する」ということになります。その「公正な利用」の中にコピーも含まれているわけです。しかし、それが許されているのは一般には、自前の機器を使う場合に限られています。だから、たとえば文房具店の複写機などを使って本のコピーをすることは許されていないのです。
Q:
では、図書館の場合はどうなっているのですか?
A:
著作権法では、通常、複製等を行う場合、著作者に許可を得なければなりませんが、法的にそれを受けなくてもよい場合がいくつかあります。図書館での複製もその一つにあげられているのです。また、ほかには営利を目的としないものや私的使用の範囲内で、著作物の自由な利用が認められています。つまり先ほど言ったように「文化の発展に寄与する」という目的のために著作権にも制限が加えられているのです。
Q:
すると、コピーするのは良いが、それを販売すると違反になるということですね。
A:
そのとおり。もしそれをすると最高で3年の懲役、または100万円以下の罰金をとられることになりますよ。
Q:
図書館でコピーする場合の具体的な制限について教えていただけますか?
A:
はい。単行本の場合だと著作権の有効期間内のものについては、その本の一部分、半分以下、に限られており、1人に1部の提供しか許されていません。それから雑誌についてですが、最新号の雑誌の一論文をまるまるコピーする人がいますが、これは明らかに著作権法違反です。少なくとも、次号が発刊されるまでは、論文の一部分しかコピーしてはいけないのです。勿論1人1部ということです。
Q:
著作権の有効期間というのはどれくらいですか。
A:
原則として著作者の死後50年までですね。
Q:
すると、漱石や鴎外の作品はまるまるコピーしても良いということですね。
A:
そういうことになります。しかし、最近はとにかくコピーの氾濫している時代ですから、著作者にとっては災厄の時代といえますね。著作権法の整備は急がないと個人の権利は侵害されるばかりです。
Q:
なるほど、不正なコピーは人権の侵害になるわけですね。たかがコピーなどと軽く考えてはいけないわけですね。――わかりました、だいたい著作権法の輪郭がつかめたような気がします。どうもありがとうございました。
A:
いえ、わからない事がありましたら、いつでもまた尋ねて下さい。
(整理係・田中康博)
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