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近ごろ「本」について思うこと

経営情報学部 教授
玉 永 一 郎

 「書物ばなれ」ということがいわれている一方で、最近、巷(ちまた)で「本屋」さんがふえてきているようである。妙な現象といえる。摂南大学に近いところにも、「本とバイクのモトランド」という店がある。まさか、バイクにのりながら本を読むわけではあるまいが「読む本」でなく、特に文芸書では、カセットで「聞く本」がふえてきているという。最近の出版傾向や、イヤホーンでニューミュージックに聞き入っている若者の姿を見ると、本とバイクの結びつきも、あながち突飛なものとは言いきれないのかもしれない。
 また、専門書のマンガ化も進められ、「本」というものの性格が変わってきたのであろう。最近ふえてきた本屋さんでも、各種文庫本を中心に、月刊・週刊の雑誌、マンガ本(劇画をマンガとよびことには抵抗を覚えているのだが)を積み上げてずらりと並べているところが多い。そのうえ、ビデオカセットも同居させている。
 他方、固い表紙(内容の"固さ"とは必ずしも一致はしないのだが)の本を、初めから終わりまで読み通すという、本の読み方がだんだん敬遠されてきているようである。途中の過程よりも、簡単に結論だけを知りたい、そのために、解説だけ読んで間に合わせるとか、目で見たり耳で聞いて分かろうといったことになる。生活の、他のいろいろな面でも、「お手軽に」と、面倒臭いことを避けて通る傾向が広まっているので、本を読むことについても同じような考え方がまかり通っているのかもしれない。
 世相や若者の価値観の変化に伴う「消費者のニーズ」に従った出版界や書店の対応策が表面化してきたものと考えられ、それはそれなりにもっともなこととは思うが、それでもなお、世評や解説にこだわらずに、自分で関心をもち、しかも良いと思った本を熟読して、必要に応じてメモを取ることを心がけ、分からないことについては辞書をひいて調べるという、「オーソドックス」な本の読み方は捨て去るべきではないと信じ、自らも実行し、人にもすすめたい。そのようにしている人もたくさんいる。
 過去半世紀以上にわたる読書遍歴の経験から、絶対的な読書方法などは思い当たらない。仕事を中心にした専門書はもちろん、興味本位で随時読む文芸書や歴史に関するものについても同様である。
 ただ、出版物の多さ故に、広告を見て気をひかれ、「そのうちに」と思っていると、書店の空間的制約もあって、現物が姿を消してしまうことが往々にして起こる。そこで、すぐに読まないものでも、とりあえず買って手元においておかないと、読む機会も失することがある。
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アサガオの種
――天然物化学における鉄砲と竹槍――


薬学部衛生薬学科 教授
宮 原 一 元

1.アサガオの種子の効用
 アサガオ(Pharbitis nil Choisy)は、熱帯アジア原産のヒルガオ科に属する蔓性植物である。日本への渡来は、平安遷都のころ、遣唐使が薬用として持ち帰ったもので、そのころの花は小型で貧弱だった。江戸時代になって観賞用に品種改良され、今日の色さまざまの大輪咲きとなり、夏の一服の清涼剤として人の目を楽しませてくれている。
 アサガオの種子は、中国では牽牛子(けんごし)と称され、古く名医別録に瀉下(しゃげ)、利尿、堕胎、回虫、条虫駆除に用いるとある。日本薬局方にもケンゴシ(Pharbitidis Semen)の名で瀉下薬(しゃげやく)として収載されている。一方、欧米では同目的で同じヒルガオ科のメキシコ産Ipomoea purga Hyneの肥大した根、ヤラッパ根がオリザバ根、スカンモニア根とともに賞用される。
 これらのもつ瀉下作用は激烈で、その本体は糖脂質の範ちゅうに入る。糖脂質は主として細胞の膜構造に見出され、物質やイオンの透過、細胞識別の免疫応答、癌化、抗原抗体反応、脳や神経の機能など、生態の維持に重要な働きを示す。化学的には、脂肪酸などの脂溶性部分と水溶性の糖部分を必ず含んでいる。ヒルガオ科植物のそれは、分子量5000−10000ともいわれる不安定で多数の類似化合物の複雑な混合物であり、特に「樹脂配糖体」と総称される。結晶にならない(樹脂状の)配糖体の意と考えられるが、誰が命名したのか定かでない。

2.ケンゴシの樹脂配糖体の化学的研究
 さて、ケンゴシの樹脂配糖体の化学的研究は、明治21年(1888年)の平野一貫の報告が最初であるから、今年で101年目を迎えたことになる。その間、大正年間に故朝比奈泰彦東大教授、昭和40年代に川崎敏男九大教授(現摂大教授)のグループの挑戦を受けたが、分子構造はおろか純粋な化合物として取り出されることはなかった。ヤラッパ根のそれも、さらに歴史が古く、研究グループは米、英、独と異なるが、然りである。筆者は数年来、恩師川崎教授とともにいわゆる樹脂配糖体の構造研究に取り組んでいるが、ごく最近ようやく曙光が射してきたかに思えてきている。
 いったいなぜ、ひとつの研究テーマが百年間も堅塁を誇っているのであろうか。かえりみると、天然物の分離と構造研究法における技術革新の歴史を垣間見ることができる。
 まず、平野、朝比奈の時代である。当時の分離法は、再結晶と種々の溶剤あるいは酸・アルカリに対する溶解度差に依った。一方、構造決定はもっぱら化学反応により、分解産物の元素分析、融点、沸点、旋光度を既知物質と比較同定し、さかのぼって本体の構造を推定し、さらに既知の反応を用いた全合成で確認された。膨大な試料と忍耐と洞察力が成功の鍵であった。このときケンゴシの樹脂配糖体の分離は不可能で、混合物のままアルカリ加水分解して2−メチル酪酸、3−オキシ−2−メチル酪酸と配糖酸となり、後者は酸水解でグルコース、ラムノースと3、11−ジオキシミリスチン酸を与え、配当酸を除く各分解産物の構造を決定している。これら構成成分の構造は今日でも正しく、このときすでに本体の分子量は8500程度と推定されている。
 次の時代は分離法にアルミナ、シリカゲルなどのクロマトグラフィー、構造決定に赤外、紫外可視分光法が感応基の判別、化合物の同定に繁用される一方で、初期の質量分析(MS)、核磁気共鳴(NRM、60MHz)、単結晶X線解析法が天然物の構造決定に導入され始めた時期である。川崎教授はいち早くこれらの「飛び道具」を導入、配当酸2種を単離・構造決定された。しかし、画期的なクロマトグラフィーをもってしても本体の分離は歯が立たなかった。

3.分析機器の進歩の中で
 さて、それから20年間のエレクトロニクス、電算、新素材、超伝導(一昨年暮れからの高温超伝導セラミックスフィーバーを思い出してほしい)技術の進歩は、天然物化学の分野の様相を一変させている。高速液体クロマトグラフィー(HPLC)と多彩な新固定相の開発、MSにおける不揮発性物質のイオン化法の開発と高分解能化(十数万)、NMRの高速大容量電算機によるFT化と超伝導による高磁場化(14ステラ、600MHz)は対象物質の超微量、高分子化をもたらし、有機分子の骨格をなすH、C、Nなどの原子核そのものを個別に観察できるようになり、分子の立体構造はもとより挙動さえも捕らえられる。
 われわれの樹脂配糖体も薬学部創立時に導入されたHPLC、MS(DX300)およびNMR(GX400、400MHz)のおかげでようやく分子量1500程度までは精密、確実な構造が得られるようになった。その一つ(図1、分子量1382)を、この20年間ほぼ5年ごとに改良されてきたNMRで測定したH核のスペクトルをお目にかけよう(図2、3)。
 いずれもわずか1ppmの間に隣接した核との相互作用で様々に分裂した36個のH核のシグナルが分布する、400と600MHzの装置では測定メニューを変えると二次元に展開でき、解析を容易にし、さらに高度な情報を提供する。進歩の跡は、まさに鉄砲と竹槍である。
 樹脂配糖体に限らず、花の色、サルモネラ内毒素、視物質など百年来の研究で、分子構造やそれをもとに分子レベルで、種々の生命現象の発現機構が明らかにされつつある例はいくらでもある。
 我々はすでに分子量4662の化合物を手中にしているが、その構造決定には、拱手扼腕、手持ちの装置ではとても手が届かない。日進月歩の技術革新は他の分野でも同じであろうが、鉄砲と竹槍では戦にならない。筆者が今なんとしてもほしい鉄砲は、世界で6台しかない600MHzNMRである。
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私と読書

ぼくの読書法と図書館について

経営情報学部 3年
福 島 道 昭

 ぼくは、小さい頃から大学に入学するまであまり本を読みませんでした。しかし、大学に入学し、かなり暇な時間があり、その時間を読書にあてるよう心がけています。
 ぼくが思うに、読書の苦手な人が本を読めるようになるには、まず自分が少しでも興味を持った分野の本を、少しずつでも読んでいくことだと思います。また、友達からすすめられた本を読んでみるのもいいと思います。不思議なもので、本を読んでいると、いつの間にか時間が経ち、とてもおちついた気分になれるのです。そして、その本の中ではいろんな感動があり、いろんなことが経験できます。
 最近、ぼくが気に入っているのは、落合信彦の本です。今まで読んだものは「二十世紀最後の真実」「アメリカの制裁」等、4〜5冊ですが、彼の本のおもしろいところは、新聞等では表面的な報道しかされていない政治関係のことを、彼の体験取材に基づいて、シビアにとらえて書いているところです。ここでぼくは思うのですが、政治関係の本だけにかかわらず、評論的な本を読むのに、一つの方向から読むのではなく、いろんな著者の批評を読んでいって、自分の視野を広げていくのが大切だと思います。その他いろんな分野の本がありますが、ぼくも、これからもっともっと本を読んで「好きな本」を増やしていくつもりです。
 なお、本と接するのに、一番身近にある本学の図書館については、利用している人が少ないように思います。実際、ぼくも図書館はレポートや試験のために利用しているだけです。とてもおちついて勉強できる場所だし、それはそれでいいと思いますけど……。
 ぼくが見た感じでは、専門書の割合が多いので、もう少し一般書も増やせば、図書館の利用も増えるように思います。また、図書館も新しくなり、3階がほとんど閲覧室となり、前よりずっと広々としていて便利です。4階の視聴覚室では、ワープロやビデオが置いてあり、とても気に入りましたが、ぼくとしては、ビデオソフトの量をどんどん増やしてほしいです。前よりずっと便利でよくなった図書館をぼくも友達と利用していくつもりです。
 最後に、この投稿を書かせてもらい、改めて自分と読書について考えることができ、感謝しています。

※ 図書館では、5月より視聴覚室にビデオデッキを5台増設しました。今後は、ソフトの充実を図っていく予定です。乞うご期待!

シェークスピア作品について

薬学部衛生薬学科 4年
牛尾 公美

 つい最近読んだ「ヴェニスの商人」より、この作品およびシェークスピア作品について、書いてみようと思います。シェークスピアの代表的作品は、1600年前後に書かれており、質、形式ともにこの時期が彼の作品の転換期となっています。この作品が作られた時期は明確でないようですが、「ジュリアス・シーザー」(1598年)より少し前で、この頃のものではないかと言われています。
 この物語の素材は非常に単純で、(1)箱えらび(2)指輪の紛失(3)人肉裁判(4)ジェシカの駆け落ちの4つの筋からなっており、このうち、(2)、(3)そして少し(1)も、セル・ジョバンニという人が書いたと言われている中世イタリアの物語集「イル・ペコローネ」の話とほぼそっくりで、単純な展開ですが読みやすく、劇としてやりやすい話であると思います。
 シェークスピアの劇本は、史劇、喜劇、悲劇の3つに分けられ、それぞれ代表的な作品として史劇では「リチャード三世」「ヘンリー六世」「ジョン王」、喜劇では「間違い続き」「じゃじゃ馬ならし」「ヴェローナの二紳士」「恋の骨折損」、悲劇では「タイタス・アンドロニカス」「ロミオとジュリエット」「ジュリアス・シーザー」などがあげられます。そして、「ヴェニスの商人」もそうであるように、大部分のシェークスピア劇には種本があります。なかにはシェークスピア劇は創作ではなく、過去の多くの物語や言い伝えを重ね合わせた「多層体」であるという学者もおられるようです。
 これら劇中の登場人物は、(1)作品中の人物、心理からくる「人生上の役割」と(2)「ストーリーの面白さを際立させる効果をねらった役割」との二重の役割を持っていることが多く、前者は私たちの人生におけるのと同様、私たちの周囲にいる現実の人間について、強い性格だとか、意地の悪い男だとかいう批評をそのまま置き換えることができ、後者は、単純に悪役や道化役、色男役などといった物語としての効果を楽しむことができるものです。
 「ヴェニスの商人」におけるシャイロックは、悲劇の人物となるのか、喜劇中のただ一配役となるのかあいまいですが、道化役としてみた場合、他の配役にない一種の味があり、何気ないストーリーの中で、強い印象を我々に与えます。
 いずれにしても、シェークスピア作品は、400年も前に書かれたにもかかわらず、現代社会に生きる私たちに本を読む楽しみを与え、また「生きること」について考えさせるすばらしい作品だと思います。

※ シェークスピア(Shakespeare, W)に関する学生用図書は、本館に54冊、分館に7冊の蔵書があります。皆さんも是非ご一読を。
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グループ学習用閲覧室の開放について

 図書館では、卒研・ゼミ等によるグループ学習の場として、本館3F 第5・第6閲覧室を学生諸君に広く開放しています。
 この閲覧室は、利用の許可を受けた諸君だけが利用できるため、おちついて学習することができます。卒研・ゼミ仲間とのレポート作成、グループ学習等に利用してください。
 なお、利用は予約制となっており、受付は図書館5Fカウンターで行っています。

夏休み特別貸し出しについて

 図書館では、夏期休暇を控え、恒例の特別貸し出しを実施しています。貸し出し要領は次のとおりです。
<卒研貸出>
・受付期間 6月21日(火)〜8月4日(木)
・貸出冊数 3冊以内
・返却期限 9月5日(月)
<特別貸出>
・受付期間 (院 生)6月21日(火)〜8月4日(木)
        (学部生)7月1日(金)〜8月19日(金)
・貸出冊数 (院 生)10冊以内 (学部生)6冊以内
・返却期限 9月5日(月)
 卒研貸出と特別貸出の併用も可能です。なお、夏休み期間中の図書館利用については、別途掲示にてお知らせします。
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昭和62年度 図書館利用統計

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