研究内容

メインテーマ:経口製剤の最適化

経口製剤は、最も汎用性や利便性が高い薬物の投与部位として長年適用されています。昨今、ペプチドや抗体を含む高分子医薬の発展により臨床製剤中で経口製剤が占める割合は減少傾向にあるものの、医薬品として経口製剤を開発することは患者QOL (Quality of Life)の観点からも極めて重要と考えています。そこで当研究室では、経口製剤開発上の様々な問題点の解決や新規製剤開発等を実践しています。また、他の研究機関との共同研究も積極的に実施しています。

1. 経口投与製剤からの薬物吸収性評価に関する研究

薬物の消化管からの吸収は、主に吸収部位での薬物の溶解濃度、小腸上皮細胞膜に対する透過性ならびに滞留時間で決定されます。そのため、薬物の水に対する溶解性と膜透過性を評価することが極めて重要です。しかしながら消化管内の生理的条件の違い(胃酸分泌状態や食事の有無など)によって投与された製剤からの薬物溶解挙動などが大きく変動することがあるため、溶解性と膜透過性のみでは十分な評価は困難です。そこで我々は、消化管内の生理的条件を高度に反映させたin vitroシステムを構築し、その有用性および応用性について報告しています。現在では、さらなるシステムアップを目指し経口投与製剤開発および臨床での問題解決に貢献できる研究を遂行しています。


学術論文(一部)
Kataoka M, et al. Pharm Res. 2003. 20(10):1674-1680. doi: 10.1023/a:1026107906191.
Kataoka M, et al. Eur J Pharm Biopharm. 2016. 101:103-111. doi: 10.1016/j.ejpb.2016.02.002.
Masada T, et al. J Drug Deliv Sci Technol. 2020. 102747. doi: 10.1016/j.jddst.2021.102747.
Masada T, et al. Pharmaceutics. 2021. 13(8):1136. doi: 10.3390/pharmaceutics13081136.

2. 難水溶性薬物の経口吸収改善に関する研究

近年、難水溶性薬物の経口吸収を改善する手法として、様々な過飽和溶解技術が応用されています。過飽和溶解とは、熱力学的な溶解度(安定結晶との平衡溶解度)以上の溶解濃度を示す現象であり、消化管内で難水溶性薬物の過飽和溶解が生じた場合、大幅な吸収性の改善が期待されます。我々は過飽和溶解技術として非晶質固体分散体(amorphous solid dispersion)や共結晶(cocrystal)などに注目し、それら技術の有用性のみならず薬物の吸収挙動の制御や最適化に関する研究を実施しています。また、リポソーム(脂質二重層を持つ球形の小胞)の新たな利用方法として難水溶性薬物の経口吸収改善に関する研究も実施しています。

学術論文(一部)
Mizoguchi M, et al. J Pharm Sci. 2018. 107(9):2404-2410. doi: 10.1016/j.xphs.2018.05.009.
Kataoka M, et al. J Pharm Sci. 2019. 108(8):2580-2587. doi: 10.1016/j.xphs.2019.03.007.
Kataoka M, et al. Eur J Pharm Biopharm. 2020. 155:29-36. doi: 10.1016/j.ejpb.2020.07.032.
Kataoka M, et al. Mol Pharm. 2021. 18(11):4122-4130. doi: 10.1021/acs.molpharmaceut.1c00537.
Minami K, et al. Pharm Res. 2022. 39(5):977-987. doi: 10.1007/s11095-022-03276-0.
Kataoka M, et al. Mol Pharm. 2023. 20(8):4100-4107. doi: 10.1021/acs.molpharmaceut.3c00237.

3. 難吸収性または高クリアランス薬物の吸収改善に関する研究

一般に、水溶性が高い薬物やペプチド医薬の様な分子量が比較的大きい薬物の消化管からの吸収性は低いため、そのような薬物の経口投与製剤としての開発は困難です。近年では、吸収促進剤(サルカプロザートナトリウム)を用いたGLP-1受容体作動薬(セマグルチド)の経口投与製剤(リベルサス®)が臨床適用されているものの、全ての難吸収性薬物に吸収促進剤を適用することは難しいと考えられます。そこで我々は、リポソームを用いて小腸上皮細胞膜近傍に効率よく薬物をデリバリーすることで吸収促進剤を使用せずに難吸収性薬物の消化管からの吸収性を改善できると考え、種々の検討を実施しています。さらに、難吸収性薬物や高クリアランス薬物を舌下から効率よく吸収させることで初回通過効果を回避しつつ全身曝露量の向上を期待できると考え、滞留性舌下投与製剤の開発も実施しています。

学術論文
Minami K, et al. J Drug Deliv Sci Technol. 2020. 101041. doi: 10.1016/j.jddst.2019.04.035.
Minami K, et al. Yakugaku Zasshi. 2023. 143(4):345-348. Japanese. doi: 10.1248/yakushi.22-00170-1.

4. 同位体IV法を用いた薬物体内動態解析に関する研究

経口投与後の薬物体内動態を評価する方法として、経口投与および静脈内投与後の血中濃度推移を測定することが一般的です。しかしながら薬物相互作用が生じた場合など体内動態変化が一様でないことが多いため、経口投与試験と静脈内投与試験を同じ条件下で実施することは困難です。そこで我々は、被検薬物経口投与後に安定同位体で標識した同薬物を微量静脈内投与する(同位体IV法)ことで、同一条件下にて経口投与後(薬物)と静脈内投与後(標識体)の血中濃度推移が評価できると考えました。さらに本手法は、動物実験の3R(replacement, reduction, refinement)のうちのreduction(使用個体数削減)に貢献します。これまでに、同位体IV法を用いることで薬物相互作用や非線形体内動態の要因解析が遂行できることを明らかにしています。さらに代謝物体内動態に注目した研究も実施しており、本手法のさらなる有用性・応用性に関する研究を実施しています。

学術論文
Kataoka M, et al. Drug Metab Pharmacokinet. 2016. 31(6):405-410. doi: 10.1016/j.dmpk.2016.08.001.
Yamashita S, et al. J Pharm Sci. 2017. 106(9):2671-2677. doi: 10.1016/j.xphs.2017.04.027.
Minami K, et al. J Pharm Sci. 2019. 108(8):2774-2780. doi: 10.1016/j.xphs.2019.03.023.
Minami K, et al. Eur J Pharm Sci. 2020. 152:105409. doi: 10.1016/j.ejps.2020.105409.
Kataoka M, at al. Drug Metab Pharmacokinet. 2023. 51:100514. doi: 10.1016/j.dmpk.2023.100514.

5. 薬物体内動態の改善を示す新規ブースター開発に関する研究

近年、薬物相互作用(薬物代謝酵素シトクロムP450(CYP)の阻害)を利用した薬物の全身曝露量改善手法が臨床適用(リトナビルなどの併用)されています。しかしながら本手法は、他の薬物と相互作用を惹起することが多いため、限定的な使用(併用禁忌の医薬品が多い)とされています。そこで我々は、この問題を解決できる安全性が高いブースターの特徴として、特定部位でCYPを阻害した後、速やかに阻害活性が消失することが望ましいと考えました。既に、当該特徴を示す化合物合成とその評価を実施し、基本コンセプトを実証しています。現在は阻害活性の向上を目的とした化合物合成および有用性に関する研究を実施しています。

学術論文
Kawai K, et al. Bioorg Med Chem Lett. 2022. 72:128868. doi: 10.1016/j.bmcl.2022.128868.
Kataoka M, et al. Drug Metab Pharmacokinet. 2024. 56:101005. doi: 10.1016/j.dmpk.2024.101005.