研究テーマ

   主に二つのトランスポーターMATE、TETRANの機能解析、生理機能の解明を目指して研究を行っている。 MATE(multidrug and toxin extrusion)とは、ヒトの腎臓の尿細管や肝臓の微小胆管のapical membraneに強く発現している有機カチオン/H+交換輸送体であり、有機カチオン排泄の最終段階を担う重要なトランスポーターであると考えられている(Otsuka M., et al (2005) PNAS.)。 TETRAN (Tetracycline transporter-like protein)とは、酵母にインドメタシン耐性を与える遺伝子Tpo1のオルソログとして同定されたヒトの遺伝子であり、インドメタシンやジクロフェナクなどのNSAIDsを中心とする有機アニオンの輸送体として同定された(Ushijima H.,et al (2008) BBRC)。 ヒトにおけるTETRANの生理的機能などに関してはまだ報告がない。

1、ホモロジーモデリング法を用いたhMATE1の詳細な輸送機構の解明
   ホモロジーモデリング法とは、アミノ酸配列に相同性(生物学的に意味のある類似性)のある構造既知タンパク質の立体構造を鋳型として、構造未知タンパク質の立体構造を計算機上で予測する手法のことである。これまでに、hMATE1の輸送機構に関与すると示唆されているアミノ酸残基としてTrans Membrane(TM)7のE273等の負に帯電したアミノ酸残基が同定されている(Otsuka M., et al (2005) PNAS.)が、hMATE1の立体構造は明らかにされておらず、詳細な輸送機構は解明されていない。一方で、MATEファミリーに含まれるNorM-VC(Viblio cholerae)のX線結晶構造解析によりInternal Cavity(内部の空洞)を通した輸送が考えられている。そこでhMATE1の詳細な輸送機構の解明を目的とし、NorM-VCの立体構造を基にホモロジーモデリング法を用いてhMATE1の立体構造の予測を行った。その結果を踏まえてアミノ酸の側鎖の配置やInternal Cavityの位置を考慮し、hMATE1において基質の結合に関与しているアミノ酸残基や、輸送される際に基質が通過するポアを形成しているアミノ酸残基を推定している。さらに、その推定したアミノ酸残基に変異を導入したhMATE1とwild typeとの輸送活性を比較し、そのアミノ酸残基の輸送活性への影響を明らかにすることで、hMATE1の詳細な輸送機構の解明を目指している。

2、MATE型輸送体トランスポートソームの生理的機能の解明
   近年、「単一分子」のアプローチの限界を克服し、分子クローニングの成果を生理機能の理解へと繋げるために、複数の輸送分子がその調節分子とともに集積して形成する分子複合体(膜輸送複合体「トランスポートソーム」)を生体膜物質輸送の機能ユニットとして捉えるという考え方が提唱されている。 当研究室では、これまでにhMATE1C末端と相互作用するタンパク質の探索により、腎近位尿細管においてhMATE1を含む4種のタンパク質がトランスポートソームを形成している可能性を見出している。そこで、マウス、ラットの組織および培養細胞を用いて、MATE1がそれらのタンパク質と相互作用しているか、またMATE1の輸送活性がそれらのタンパク質によって制御を受けているかどうかを明らかにするため、免疫染色法や免疫沈降法を用いて実験を行っている。

3、MATE型輸送体の排泄トランスポーターとして以外の生理的役割の解明
   MATE型輸送体は腎臓や肝臓の他に、心臓や骨格筋などの臓器にもmRNA が発現していることが報告されており、これまでに明らかにされている腎臓、肝臓での排泄トランスポーターとして以外にも、MATE型輸送体は生体内で多様な働きを担っていると考えられる(Otsuka M., et al (2005) PNAS.)。心臓や骨格筋に発現しているMATE型輸送体の生理的機能及び生体内での基質については不明である。 排泄トランスポーターとして以外の MATE型輸送体の生理的機能の解明の為に、各臓器における詳しい発現部位の解明及び、新たな基質の探索を行っている。

4、TETRANの機能解析
   インドメタシンのような非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)はその副作用に胃十二指腸潰瘍がある。この副作用はcyclooxygenase阻害によるprostaglandin (PG)量の低下が原因と考えられてきたが、PG量と胃十二指腸潰瘍の発症に相関性がない可能性が報告された(Tomisato W.,et al (2004) Biochem Pharmacol )。また、NSAIDsには直接的な細胞障害作用があることが明らかになり、副作用の発症の原因になり得るのではないかと考えられている(Mima S.,et al (2007) FEBS Letters )。TETRANはNSAIDsを輸送し、体外へ排泄することによって、その直接的な細胞障害作用を軽減し、胃十二指腸潰瘍の発症を抑えているのではないかと考えられる。 そこでTETRANの詳細な輸送メカニズムの解明を目的としてTETRANの組織内分布、及び輸送活性に重要なアミノ酸の特定などを行っている。