社会課題の解決に貢献する 摂南大の研究力 Series01 挑む、楽しむ。「食」と「農」の可能性を広げる 農学部の多彩な研究フィールド

健康寿命の延伸、食料危機、気候変動、農業人口の減少──
「食」と「農」を取り巻く課題は、かつてないほど複雑化している。 解決の鍵となるのは、分野の垣根を越えて知を結び、新たな価値を創造する研究力だ。 摂南大学農学部では、多彩な研究フィールドで未来を切り拓く挑戦を続けている。

Chapter 01 :

日本人のデータから一人ひとりに合う「腸活」を科学

腸内環境を整える「腸活」は幅広い世代の関心事。応用生物科学科の井上亮教授は、腸内細菌叢(腸内フローラ)の研究を通じ、一人ひとりに適した健康習慣の実現を目指している。
研究当初は大きな課題に直面した。腸内細菌の検査を行う機関や手法によって偏りが生じ、世界中のデータを単純に比較できない。しかも欧米人中心で、日本人には当てはまりにくい。そこで「自分たちでデータを集めよう」と決意。京都府立医科大学や企業と手を組み、独自の日本人の腸内フローラデータベースの構築を始め、今では国内最大級規模(2・6万人)まで拡大した。
その膨大なAI解析から導き出したのが、日本人の腸内環境を5つに分類した「エンテロタイプ」。米や発酵食品をベースに、西欧化も進む日本人の食生活を反映する分類法として特許も取得。近年は、エンテロタイプを補完するものとして「食物繊維摂取スコア」の指標化にも取り組む。食物繊維が足りないと腸のバリアである粘液が削られ、疾患リスクが高まる。

生活習慣の情報はエンテロタイプに反映される
生活習慣の情報はエンテロタイプに反映される

「まずは1日のうち1食を意識するだけでも、変化が起こる可能性はあります。誰もが無理なく楽しめる腸活を、科学的根拠をもって提案したい」。研究成果をもとに、自宅で手軽に受けられる腸内フローラ検査サービス『Flora Scan®(フローラスキャン)』も開発。大阪府枚方市の「ふるさと納税」返礼品に採用されるなどの社会貢献モデルを築いている。

応用生物科学科 井上 亮 教授
応用生物科学科 井上 亮 教授

Chapter 02 :

「スマート農業」で作物の
安定生産、省力化の実現へ

食料の安定供給という社会課題に、ロボットやIoT、データ解析などを駆使した「スマート農業」で挑むのが農業生産学科の渡邉健太助教(取材時点)だ。長く研究対象としているのは、沖縄県のサトウキビ。地域経済を支える農作物である一方、収量は降雨量に左右される。生産者が、いつ、どのくらい水をやればよいかを経験や勘で判断するのは難しく、炎天下での灌水作業は高齢化が進む農家にとっては負担が大きい。

農業生産学科 渡邉 健太 助教(取材時点)
農業生産学科 渡邉 健太 助教(取材時点)

そこで研究を始めたのが、データを活用するスマート灌水システムだ。圃場に設置した気象観測装置から、環境データをリアルタイムで収集。土壌の乾燥程度によって変化するサトウキビ畑の水分量や蒸発散量まで正確に算出することにも成功し、必要な「点滴灌水」の遠隔化・自動化を進める。例えば「沖縄本島に居ながら、スマホで360㎞離れた南大東島の畑のポンプを遠隔操作し、ピンポイントで水を撒く」といった、これまでの常識を覆す仕組みの構築を目指す。本学と同じ法人が設置する大阪工業大学の小林裕之教授や大学院生らとともに、農家での実用化を助けるアプリケーションの開発にも着手した。 「スマート農業=機械化ではありません。植物の仕組みを正しく理解した上で、データと技術を活用し、限られた資源を最大限に生かすことが重要。今後は他の作物の生産現場にも研究成果を広げたい」。飽くなき挑戦は、「科学は社会の課題を解決するために」という考えのもと、新たな未来を切り拓いていく。

局地的な気象情報や成育状況から適切な灌水量・タイミングを判断し、アプリを使って灌水管理。
局地的な気象情報や成育状況から適切な灌水量・タイミングを判断し、アプリを使って灌水管理。
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2026年7月17日付・日本経済新聞大阪本社版より転載
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