社会課題の解決に貢献する 摂南大の研究力 Series02 挑む、楽しむ。植物の力でエネルギーを生み 自然と共生する「光合成建築」

建物はエネルギーを使う──そんな常識を覆す研究が摂南大学で進んでいる。
植物が光合成する仕組みを取り込むことで、自らエネルギーを生み出す「光合成建築」。
理工学部生命科学科の松尾康光教授と、住環境デザイン学科の川上比奈子教授がそれぞれ異なる専門性を持ち寄り、自然と共生する新しい建築の可能性を探っている。

Chapter 01 :

棄てられる緑から電気を
つくり出す燃料電池を開発

始まりは、とある会議後の懇親会での会話だった。
シャイな松尾教授が話題に困り、自分の研究について話し始めた。「植物の光合成でLEDが光ったんですよ」。唐突な話に、思わず食いついたのが川上教授である。「それ、建築に使えるんじゃないですか」。以来、2人は10年にわたり「光合成建築」を構想してきた。
生命科学と建築では、研究の進め方も論文の書き方も違う。そのため激しい議論を繰り返したというが、ただ一つ、揺るぎない共通理念があった。川上教授が語る。「人間は自然なしでは生きていけません。なのに、森を造成する時、あるいは農作物が余った時、人間は緑を廃棄せざるを得ない。〝棄てる緑〟から、少しでもエネルギーと酸素を再生する、新たな共生のあり方を提案したいのです」
研究の核となっている技術は、松尾教授らが開発した「光バイオ燃料電池」だ。間伐材などの伐採樹木や廃棄される植物から、葉緑体を抽出。その溶液を透光性のある素材でできたパネルに注入すると、光合成の過程で水素と酸素を取り出すことができる。水素は電気エネルギーに変換し、酸素は自然に還す。この仕組みによって「LEDが光った」のは、実は世界初の快挙だった。

写真右から松尾康光教授(生命科学科) 川上比奈子教授(住環境デザイン学科) 瀬溝人生助教(生命科学科)
写真右から松尾康光教授(生命科学科)
川上比奈子教授(住環境デザイン学科)
瀬溝人生助教(生命科学科)

Chapter 02 :

パネル等に組み込み美しいグリーンの建築材料として活用

光バイオ燃料電池は、蛍光灯のような弱い光でも発電する。また、葉緑体の溶液を入れる容器はパネル型のほか、チューブ型、ボウル型などさまざまな形やサイズに変更可能。そこで、建築意匠を専門とする川上教授の出番だ。屋根・壁・床・窓、さらには家具などにどう組み込んでいくかを検討していった。葉緑体のグリーンは見た目にも美しく、人に心地よさをもたらす。
数年前からは、松尾教授と同じ生命科学科の瀬溝人生助教も研究メンバーに加わった。メンテナンスの面でクリアすべき課題はあるものの、研究はさらに深化。松尾教授は「燃料電池の心臓部にあたる電解質には、魚のうろこやエビ・カニの甲殻に含まれる成分を使うなど、とことん自然共生にこだわっています。今後は電気エネルギーへの変換効率を高めるなど、さらに実用化に近づけたいですね」と意欲を燃やす。「建てる」建築から、「植える」建築へ。その挑戦は、建築と自然の新たな共生のあり方を社会に問いかけている。

光合成建築を取り入れたマンションのデザイン
光合成建築を取り入れたマンションのデザイン

Column :

社会に提案してきた
これまでの活動事例

光合成建築は2022年夏から大林組と実証実験を1年半実施し、同社のCMテーマにもなった。
25年には大阪・関西万博やひろしま植物園などに出展。26年4月には、イタリアで開催されたミラノサローネに日本から唯一、主催者招待枠で公式出展。「サローネサテリテ」部門でテーブルやスクリーンを展示し、透明感のあるグリーンカラーの空間づくりが大きな注目を集めた。これらの活動には松尾教授や川上教授の研究室の学生たちも参加し、生きた学びを得ている。

世界最大級の国際家具・インテリア見本市 「ミラノサローネ」に出展
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2026年7月28日付・日本経済新聞大阪本社版より転載
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