社会課題の解決に貢献する 摂南大の研究力 Series05 挑む、楽しむ。薬の「吸収」を体外で再現し、未来の製剤開発を支える

人が飲む薬は、胃で崩壊・溶出し、小腸で吸収され、血液中に入る。その過程を人に投与せず再現できれば、製剤開発の時間やコスト、人への負担も大幅に削減できるはずだ。摂南大学 薬学部 薬学科の高木敏英教授は、そんな考えのもと、製剤間の有効性と安全性が同等であることを意味する「生物学的同等性(BE※)」を、効率よく確認できる技術を追求している。
※bioequivalence

Chapter 01 :

企業での製剤開発で感じた「壁」を大学での研究課題に

高木教授は以前、製薬会社で製剤開発に携わった経験を持つ。そこでは錠剤を先に販売してから、同じ成分でもさらに飲みやすい経口液剤や、水のいらない口腔内崩壊錠を開発することが多かった。そして何度も壁にぶつかったという。製剤として作ることはできても、人が飲んだ時に錠剤と同じような血中濃度推移が得られず、医薬品販売の承認申請までたどりつけないのだ。「なぜ同等の結果が出ないのか──その答えを見つけることを、大学での研究課題としたのです」
摂南大学には、先に同様の研究に取り組む教授がいた。その教授の基本構想をもとに、より社会実装に近づけるため、高木教授が試行錯誤を重ねているのが「BEチェッカー」である。
この装置では、人の消化管内に相当するチャンバーと、血管内に相当するチャンバーを並べて設置する。2つの間には、消化管の壁に見立てた膜を設ける。消化管側に、初め人工胃液を入れ、次第に人工腸液に変えていき、薬の成分がどれくらい膜を通って血管側の人工血液内に移動していくかを見ていく【図参照】。体内で薬が吸収される過程を、装置の中で再現できるのだ。機能の検証にあたっては、製薬会社から提供を受けた製剤も活用し、ブラッシュアップを続けている。

薬学科 高木 敏英 教授
薬学科 高木 敏英 教授

Chapter 02 :

時間やコスト、人への負担を減らす新たな評価技術へ

「人に実際に薬を服用してもらう臨床試験を実施すると、被験者数にもよりますが、数千万円のコストが必要となります。BEチェッカーなら遥かにコストを抑えられますし、治療目的ではない人への薬物投与を避けることもできます」と高木教授。現在、力を入れているのは、胃酸分泌量などの個人差を考慮した製剤評価システムの構築だ。
胃酸が盛んに出る若者と、あまり出ない高齢者とでは、薬の溶け方も違ってくる。実際に製薬会社は、医薬品の審査機構から低胃酸者での臨床試験の実施を指示されることがあるそうだ。「BEチェッカーの試験で、低胃酸の条件でも同じような溶け方、吸収の仕方をすることが実証されたので、臨床試験は不要ですと、そう言える世界を目指しています」
平均的な「人」を再現するだけでなく、さまざまな条件下における薬の吸収を精度よく予測できれば、特定の患者集団や個人ごとの消化管環境を想定することも視野に入る。つまり、患者一人ひとりに、より適した薬剤を選択する「個別化医療」にもつながる可能性があるのだ。企業人時代に感じた「なぜ」。その答えを探して始まった研究は、いま、未来の製剤開発を支える基盤になろうとしている。

消化管生理を反映した「BEチェッカー」
【図】消化管生理を反映した「BEチェッカー」

Column :

社会実装を目指して
製薬会社と共同研究

「BEチェッカー」の社会実装に向けた現在地について「10段階とすれば2〜3割程度でしょうか」と、あくまで慎重に捉える高木教授。それでも、着実に歩みは進んでいる。現在も継続的に数社の製薬会社と共同研究を実施。例えば、最初10mgで作った製剤を50mgにする場合、製法が微妙に変わってくるが、「10mg錠5個」と「50mg錠1個」の溶け方や吸収のされ方は同じでなくてはいけない。そういった場合などにBEチェッカーが用いられ、結果が異なった時の原因究明などにも役立っている。

BEチェッカー
▲BEチェッカー
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2026年9月1日付・日本経済新聞大阪本社版より転載
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