社会課題の解決に貢献する 摂南大の研究力 Series04 挑む、楽しむ。見えない危険をデータで捉え まちの防災・減災へ

頻発する自然災害、老朽化するインフラなど、暮らしの安全を脅かすリスクは多い。
摂南大学 経営学部 経営学科の梅原喜政准教授は、センサーで取得した現実空間のデータをAIで解析し、防災・減災やインフラの維持管理などに役立てる研究を推進。
見えない危険を「見える化」することで、安心・安全な社会の実現を目指している。

Chapter 01 :

原点は大学院時代に「点群データ」の可能性を知ったこと

梅原准教授の専門分野はコンピュータ・サイエンスと知識情報学だ。なかでも、「点群データ」と呼ばれる3次元情報を用いた画像処理に注力している。「他人からは『経営学部らしくない』と言われます。基礎理論の研究ではなく社会実装を目指しているので、自分としては違和感はないんですけどね」と笑う。
点群データとは、空間上の物体や地形などを、無数の「点」の集まりで表したデータのことだ。1つ1つの点が、X・Y・Zの3次元座標を持っている。梅原准教授は学生時代に点群データと出合い、興味を持った。
これを用いて、大学院博士課程では河川堤防の維持管理について研究した。定期的に行われる河川の縦横断測量では、人が川に入って200m間隔で測量を行う。流されるリスクがあるうえ、測量ポイント以外の状況はつかめない。そこで、レーザー機器を搭載した航空機を飛ばして点群データを収集。維持管理に使える河川の3次元モデルを作った。「自分のこの研究が、縦横断測量において航空レーザー測量が許されるきっかけになったのです。私が社会実装にこだわるようになった原点かもしれません」
近年はAIによる解析も組み合わせ、防災・減災に活かす研究を進めている。まず着目したのは、震災時に倒れやすい「ブロック塀」だった。

経営学科 梅原 喜政 准教授
経営学科 梅原 喜政 准教授

Chapter 02 :

災害におけるブロック塀の
危険を減らす取り組み

街なかで見かけるブロック塀は、震災時には避難者に危害を及ぼしたり、緊急車両の通行を妨げたりする。しかし、個人による設置が多く、台帳もないため管理が難しい。
梅原准教授は、この問題を重くみた徳島県や徳島大学などと共同で研究。レーザー機器を搭載した車を走らせ、街中の点群データを計測した。さらにAIを使い、どれがブロック塀かはもちろん、傾きやヒビ割れなどの危険度やメンテナンスの必要性まで判定するシステムを生み出した。
また、居住者や近隣住民がタブレットなどを使い、自分たちでブロック塀を点検できるアプリも開発。「今後は『市民協働』が1つのキーワードになってくると思います。例えばメガネのようなウェアラブルデバイスを使いながら、市民が何も意識せずに歩いているだけで街中のデータが集約され、まちづくりやメンテナンスに還元される。そんな未来がくれば面白いなと」
現在、梅原准教授は「空間ID」の研究にも取り組む。地球上の空間を細かな直方体の箱(ボクセル)に分け、それぞれの場所に番号や記号を割り当てて位置を特定する共通規格だ。ドローンの安全飛行やインフラ管理などへの活用が期待される。現実空間をデジタルデータとして蓄積・活用する技術は、人手不足が進む時代に、新たな社会基盤となる可能性を秘めている。

点群データからブロック塀を自動抽出
■ 点群データからブロック塀を自動抽出

Column :

「罹災判定」への応用も
能登で検証

震災時には家屋の被害状況を調べる「罹災判定」が行われるが、調査員の派遣には時間がかかり、判定にバラツキも生じやすい。コンピュータによる点群データ・画像処理技術は、こうした課題解決にも応用できる。2024年の能登半島地震では、梅原准教授が研究室の学生たちを伴って現地に赴き、実用化に向けて調査を行った。「住民自身のスマホで家屋状況のデータを送ってもらい、判定する仕組みづくりを考えています。いずれは現地に調査員を派遣せずとも、迅速に罹災証明が出せる世界を実現したいですね」

建物の被災状況を調査する学生
▲建物の被災状況を調査する学生
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2026年8月26日付・日本経済新聞大阪本社版より転載
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