ウトロ平和祈念館 金秀煥(キムスファン)副館長のゲスト講義[森ゼミナール]



UPDATE 2025-01-20

摂南大学国際学部森ゼミナール(4期生)では、2024年7月23日(火)3限にウトロ平和祈念館の副館長である金秀煥(キムスファン)さんに、実際に摂南大学まで足を運んでいただき、ゲスト講義をしていただきました。ゼミとして金秀煥さんとお会いするのは二度目で、私たちが2024年5月12日にウトロ祈念館に訪問した際にはウトロ平和祈念館の紹介や、展示物について1つ1つご説明をしてくださいました。今回の講義では「ウトロ平和祈念館の実践と可能性について」というテーマのもと、じっくりとお話をしてくださいました。

ウトロ平和祈念館は2022年4月30日に宇治市伊勢田ウトロで開館しました。ウトロの歴史や自分たちの生活を守るために戦ってきたウトロの人々の姿を通して、人権や平和の大切さを伝えている場所です。また、地域住民や日韓市民の交流、近隣学校および企業の人権研修の場ともなっています。

金秀煥さんによると、ウトロ平和祈念館を創設するにあたり「私たち関係者の強い思いはあるが、人々は本当に訪ねてくれるのだろうか。ウトロと在日コリアンというテーマは戦前戦後につながる日本社会に存在した人権問題であるが、このテーマは人権問題の中でも、日本の人々の関心外ではないだろうか」という不安があったとおっしゃいました。しかし、2022年に開館して以来、1万3000人を超える来場者がウトロ平和祈念館を訪れたという結果から、「日本の人々は『ウトロは自分とは関係のない地区だ、違う問題だ』という線引きをしなかった。人権問題に真剣に目を向けるために現場を訪れて歴史から学ぼうという人たちは私たちが想像した以上にいらっしゃることに気づいた」と話しておられました。

本記事筆者(永岡)が、金秀煥さんのお話の中で一番印象に残った内容は、近隣学校である立命館宇治高校の共同人権研修プログラムでのお話です。立命館宇治高校では、映画制作という授業をおこなっており、単なる映像製作ではなく、学生たちが直接現場に足を運び関係者の話を聞いて取材をするそうです。そして、取材の結果を踏まえて、ウトロの人権問題とはどういう問題なのか、それを乗り越えるためにはどうするべきかを討論しショートムービーにしたということです。

「ウトロの今を伝える 立命館宇治高生が記録映画を作成」『朝日新聞』DIGTAL(2024年2月4日)https://www.asahi.com/articles/ASS2375B7S1SPLZB00R.html

金秀煥さんによると、立命館宇治高校の学生たちは「現場に来て直接話をすることはとても大事な経験になる」と話したそうです。つまり、学生たちにとってウトロを訪問する前は、人権問題は「重い」「暗い」「かわいそうな人たち」「自分とは違う人達である」というイメージだったのが、記録映画製作はそのようなイメージを払拭するきっかけになったというのです。

このお話を聞いて、本稿筆者(永岡)は2023年5月に一人でこのウトロ平和祈念館を訪ねたた時のことを思い出しました。筆者の場合は、人権問題に関心があって訪れたというわけではなく、大学の授業で元「徴用工」問題について調査していたため、そのつながりでウトロ平和祈念館を訪れました。事前学習で、元「徴用工」問題のことについて調べれば調べるほど、日本に強制的に連れてこられ、働かされ、最低ギリギリの生活を強いられた韓国・朝鮮人の姿が見えるような気がしました。筆者(永岡)は、ウトロ平和祈念館に、そのような歴史を勉強するために見学しに行きました。もちろん、そのような歴史も学ぶことができますが、筆者が実際にウトロで見たのは、明るく、助け合い、情にあふれる在日コリアンの姿でした。歴史上、ウトロでは差別や人権問題は存在していたのは事実でしょうが、その状況下でもいつでも前をみて、少しでもよりよい生活をしたいと願い闘ってきた人々の姿が祈念館には大事に残されています。あらゆる形でコミュニティを守っていく方々の思いや情熱を一気に浴びた思いがしました。あらゆる問題について考えるときでも、現地に赴き自分の目で見て感じることが重要だとあらためて感じるきっかけになりました。

金秀煥さんは、夏休みにウトロ平和祈念館の一階を開放し、一階で勉強した小学生・中学生・高校に対してかき氷を無料でプレゼントするという夏休み企画も実施していると教えてくださいました。

「こどもカフェ(2024年夏休み期間)」(ウトロ平和祈念館ホームページ)

https://www.utoro.jp/2504/

金秀煥さんを始めとしたウトロ関係者の皆様とまたお会いできる日を楽しみにしております。この度は貴重なお話をありがとうございました。

(国際学部森ゼミナール 永岡多恵)