森類臣准教授による共編著『韓国ドラマの想像力 社会学と文化研究からのアプローチ』が刊行されました



UPDATE 2025-01-20

 8月30日に、国際学部の森類臣准教授が平田由紀江教授(日本女子大学)・山中千恵教授(京都産業大学)とともに『韓国ドラマの想像力』を人文書院から刊行しました。

人文書院ホームページ

https://www.jimbunshoin.co.jp/book/b10085827.html?srsltid=AfmBOorTXYjRhsHVJSIfraUxNGKIHo2j80BZp1IbKG971VuotYehb21Z

 副題にあるように、本書は、韓国ドラマを社会学と文化研究から読み解いてみるということを一つのコンセプトにしています。韓国ドラマ初心者~すでに浸っている方に楽しんでいただけるのみならず、社会学や文化研究に関心のある初学者向けという側面も持っています。また、本書は、韓国ドラマがどのような社会を想像/想像しようとしているのかを全体を貫く重要なテーマにしています。

 森准教授は、「第1章 人工知能の行く末と人間性:『キミはロボット』」「第7章 権力と社会正義の行使:『補佐官』『補佐官2』」「第9章 軍事文化と逸脱の問題:『D.P. 脱走兵追跡官』『D.P. 2』」「コラム3 韓国ドラマに描かれる『財閥』」の執筆を担当しました。

 本書では、上記のドラマ以外にも次のようなドラマを取り上げています。

「愛の不時着」「サバイバー 60日間の大統領」「酒飲みな都会の女たち」「静かなる海」「キングダム」「SKYキャッスル 上流階級の妻たち」「応答せよ」シリーズ、「シスターズ」「ザ・グローリー 輝かしき復讐」「秘密の森」「マイ・ディア・ミスター 私のおじさん」「グリーン・マザーズ・クラブ」「結婚作詞 離婚作曲」「椿の花咲く頃」など。

[国際学准教授 森類臣]

長期海外出張 マレーシア(上田教授)



UPDATE 2024-10-07

私は2023年9月から長期海外出張制度を利用して、マレーシアに行きました。現地での受入研究機関はマレーシア国民大学(Universiti Kebangsaan Malaysia、以下UKM)の人文社会科学部(Fakulti Sains Sosial dan Kemanusiaan、以下FSSK)です。同学部内にあるマレー言語・文学・文化研究センター(Pusat Kajian Bahasa, Kesusasteraan dan Kebudayaan Melayu)というセクションに在籍するカリム・ハルン博士が受入教員としてご尽力下さり、現地での研究活動を円滑に進めることができました。

UKMは1970年に建てられた国立大学です。スランゴール州にあるメインキャンパスは広大で、山を切り開いた敷地に9学部と11研究機関を擁します。私の所属したFSSKは言語学や歴史学といった人文科学から、国際関係論や政治学などの社会科学まで、広く文系の学問領域をカバーしています。

一年間、UKMに拠点を置いて、自身の調査地であるサバ州や東ティモールに足を運び、現地調査を行うことが出来ました。また、UKMの図書館は東南アジア関連の文献コレクションが充実しているため、時に書庫で本や資料を探しつつ、時にオンライン化された論文を閲覧する日々でした。現地調査や文献調査の成果は、帰国前に二つの国際学会で発表しただけでなく、いくつかの研究会で話す機会を得ました。こうした機会に、新たに国内外の研究者と知り合えたのも大きな収穫の一つです。研究活動に加えて、FSSKで開講されているカリム博士らの授業に参加して、教授方法について知見を得ることもありました。

<チャペル内で行われた収穫祭関連イベント(マレーシア)>

サバ州でも東ティモールでも、私が調査対象とする人々の宗教はカトリックです。現地調査を通じて、二つの社会を対照したり、重ね合わせて見ることで、かれらの信仰生活について理解を深めることが出来ました。とりわけ今回の滞在でありがたかったのは、大学で教えている限りはなかなか赴くことの出来ない時期に、調査地を訪れられたことです。サバ州は毎年五月末に「収穫祭」と呼ばれる文化行事があります。サバ州の先住民の人々が米の収穫を祝して行ってきた伝統行事が、州の文化行事として大々的に行われるようになったものです。さまざまな関連行事が開催されて、お祭りムードが醸成される五月末の時期にサバ州に滞在したのは、およそ20年ぶりのことでした。

また、10年ほど前から調査を始めている東ティモールも、通常であれば調査のために赴くことが出来るのは、授業のない期間に限られます。同国の主要な農作物であるコーヒーの収穫のシーズンは七月頃なので、いつも収穫前や収穫後に行かざるを得ませんでした。今年、初めて収穫の時期に行くことが出来たので、農作業の分担や販路の詳細がわかって、また違った角度から東ティモール社会について知見を得ることが出来たように思います。
< 山間部の小さなチャペル(東ティモール)>

実は、私が大学院生だった2002年から2004年までの期間も、UKMに研究生という立場で在籍して現地調査をしていました。20年の時を経て、同じキャンパスで時間を過ごすことになったわけです。

現地で暮らしていて20年の変化を最も感じたのは、売られているものの値段です。折からの円安に加えて、マレーシア国内の物価上昇もあって、食料品などは日本で調達するのとそう変わらないものも増えてきました。たとえば卵や牛乳は、スーパーでの価格を見るとほとんど違いを感じません。いっぽうで、南国ならではのフルーツや、日常的に食する野菜などは、美味しいものを安価で入手できます。新鮮な葉物の野菜は、日本で支払う値段で数倍の分量が手に入ります。日本とマレーシアの二国間の物価の差はますます小さくなっているようですが、ものによって事情はさまざまのようです。

大きく変わったなと思うことの二つめは、キャッシュレス決済の普及です。日本もコロナ禍を経てキャッシュレス決済が急速に普及しました。ですが、マレーシアで暮らしていると、普及の度合いはそれ以上だと感じます。大学内でさえ、現金が使えないシチュエーションがしばしばあって、苦慮したのを思い出します。もちろん、ショッピングセンターやホテルなどでは、マレーシアでも昔からクレジットカードが使えていました。ですが、今や小さなスーパーでも現金以外の支払いが一般的です。

とりわけ、現金以外の決済手段として、QRコード決済が広がっているのが興味深かったです。スマホにオンラインバンキングのアプリを入れると、(ほぼ自動的に)個人のQRコードが発行されるほか、種々のアプリに決済用のQRコードが実装されています。そうしたスマホのアプリによる決済が、いたるところで可能になっています。支払用のアプリが何であるかを特に考えることなく、レジ横に設置されたQRコードを読み取ったり、こちらが表示したQRコードを表示したりして行う決済は、とても便利です。ナイト・マーケット(pasar malam, 夜市)や、道ばたの屋台などでも、QRコード払いがかなり浸透しています。私も、日本ではスマホでの支払いをしたことがありませんでしたが、マレーシアではそれなしでは不便だと思うくらいに使い慣れてしまいました。
<小さな個人商店でもQR決済が可能(マレーシア)>

20年ぶりのマレーシアでの生活は、新鮮で刺激に満ちたものでした。現地で暮らすことは、現地の社会や文化を学ぶことに直結します。特に、私の専門分野では、こうした感覚を持ち続けることが大きな意味を持ちます。今回の滞在は、これまでに得てきた知識や情報を見直したり、時に再確認したりする、充実した時間となりました。

末筆ですが、このような機会を頂けたことにつきまして、関係各所にあらためて感謝申し上げます。とりわけ、手続き等でバックアップして下さった職員のみなさんや、温かく送り出してくれた国際学部のみなさん、ありがとうございました。

(国際学部教授 上田達)

ハノイで開催された国際学術会議「India in the New World Order after the Russia-Ukraine Crisis」に参加しました(森類臣)。



UPDATE 2024-02-24

 2023年9月7日に、ベトナム社会科学院の招請を受けてハノイで開かれた国際学術会議「India in the New World Order after the Russia-Ukraine Crisis」に参加しました。会議の主催はベトナム社会科学院インド西南アジア研究所(Vietnam Institute for Indian and Southwest Asian Studies, Vietnam Academy Of Social Sciences)です。

 会議のセッションⅠ「Impact of the Russia-Ukraine crisis and India’s policy」では、2021年から本格化した「ロシア・ウクライナ危機」後のインドの動向に第一の焦点が当てられていました。ベトナムは、外交上最も強固かつ重要な関係である「包括的戦略的パートナーシップ」を6か国と締結しており、インドはそのうちの一つです(他の5か国は中国・ロシア・韓国・米国・日本)。近年、ベトナムではインドの影響力に注目が集まっており、インド研究を行う研究者が増えているようです。

 また、セッションⅡ「Challenges of the Indo-Pacific region after the Russia-Ukraine crisis」では、ベトナム―インド関係に限らずアジア諸国の関係を幅広く議論しました。森准教授は「Analysis of Japan’s Policies for South / North Korea: With an emphasis on after the Russia-Ukraine Crisis」というタイトルの発表をし、日本の朝鮮半島政策(日韓関係と日朝関係)のうち近年の重要な事柄をいくつか取り上げ、現状分析を発表しました。

 会議には、ベトナム社会科学院所属研究者はもちろん、台湾・インドからも研究者が参加し発表しました。また、インド大使館および日本大使館の関係者や、諸外国での外交官経験があるベトナム外務省関係者なども参加しました。主催者側が述べたように、ロシア·ウクライナ危機後の新世界秩序について研究者と外交官が議論して各国の課題を考え、お互いの交流を深めていくことに会議の趣旨がおかれていました。

 会議では活発な質疑応答がなされ、また国際協力について意見交換がなされました。なお、当日の模様は、VTC Digital Television Networkで報道されました(下記URLがリンクとなっています)。

https://vtc.vn/an-do-trong-trat-tu-the-gioi-moi-sau-khung-hoang-nga-ukraine-ar818144.html

(国際学部特任准教授 森類臣)

第7回 国際文化セミナーが開催されました



UPDATE 2023-11-01

 10月7日、国際文化セミナーが開催されました。本セミナーは、2022年度に開設された国際学部の学びと所属教員の研究活動について学内外に広く紹介するもので、今回はその7回目です。「地理学の可能性〜フィールドワークからのアプローチ〜」をテーマとして、本学国際学部の講師2名が自然地理学と人文地理学の分野におけるそれぞれの活動の内容を紹介しました。

 大谷侑也講師は、「気候変動とアフリカ ―「熱帯の氷河」に焦点を当てて―」という題目で、ケニア山とキリマンジャロ山での文理融合的な研究調査の成果を、現地の写真や映像を交えて報告しました。人類が直面する気候変動や地球温暖化を象徴するように、ケニア山の氷河は非常に速いペースで縮小しており、10~20年後には消失すると予測されています。この氷河縮小と周辺の水環境の関係性を記録するためのモニタリング調査について、炭素安定同位体を用いた土壌成分の分析や高山植物の枯葉の分析といった具体的な方法を示しながら、わかりやすく解説しました。

 

 小林基特任講師は、「人が生きる空間、場所、世界―市民活動拠点とのかかわりから考える―」という題目で、この四半世紀あまり地理学が課題としてきた「どうすれば空間に人間性を復活できるのか?」ということについて講演しました。自身のフィールド調査の事例を紹介しながら、“無味乾燥”な「空間」の科学としての地理学の枠を超えて、人が関わり調和していく人間らしい「場所」を考える、新たな地理学への志向を示しました。

  今回は国際学部の基礎ゼミナールの一環として1回生も聴講し、質疑応答では、フィールドワークにおける難易点や今後の展望などについて応答がありました。

 文理社の領域の枠にとらわれない研究活動の実例にふれることは、“国際学”という一見つかみどころのない学際的分野の面白さと同時に、それを前提として幅広い関心と知識を要求するものであるという現実に気づかされる良い機会になったことでしょう。

(国際学部講師 安達直樹)

杉山先生の訳書紹介



UPDATE 2022-01-20

ジョルジョ・アガンベン『オプス・デイ 任務の考古学』2019年、以文社

Agamben, Giorgio, Opus dei, Archeologia dell’ufficio, Homo sacer, II, 5, 2012, Boringhieri, Torino

ジョルジョ・アガンベンの著作『オプス・デイ 任務の考古学』(以文社)の邦訳が出版されました。翻訳は国際学部の杉山が担当しました。アガンベンの名を世に知らしめた『アウシュヴィッツの残りのもの——アルシーヴと証人』(1998年)以降、このイタリア出身の哲学者は世界でもっとも著名な思想家のひとりであり続けています。アガンベンが一貫してあきらかにしようとするのは、人間の存在がさまざまな機制にとらわれている理由と、その人間が自由になりうる条件です。
 ラテン語で「神のわざ」という意味の『オプス・デイ』(2012年)は、上記テーマに「仕事」(任務)という切り口で取り組みます。たとえば本書が問うのは、わたしたちは「なぜ仕事に対して疎外感を持つのか」、そして「なぜ仕事を効率よくしようと躍起になるのか」ということです。この疑問をふまえてアガンベンが注目するのはキリスト教のミサ(典礼)でした。
 キリスト教の長い歴史のなかで、ミサを執りおこなう司祭の定義はつねに問題含みです。まず、処刑されたのちの復活に代表されるキリストの行為は、ただ一度きりの奇蹟です。しかし、信者を統率しなければならない後世の司祭も、その仕事(聖務)がなんらかの奇蹟であることを求められます。そこで初期キリスト教の指導者(教父)たちは、司祭をキリストその人による行為を代わりにおこなう存在として定義します。たとえば洗礼という仕事は、司祭その人の行為はただ水をそそぐだけであっても、それがキリストその人の行為であるからこそ、信者は神の恵みに満たされるというのです。こうしてひとつの仕事がふたつに分割された結果、ひとりの人間でもある司祭はとても微妙な状況に陥ります。なぜなら、神の恵みを有効にする道具のようななにかになる彼らは、みずからの生と行為が切り離されたまま存在し続けるからです。
 アガンベンによると、この生と行為の切断がほぼそのまま現代のわたしたちにインストールされているからこそ、疎外感と実効性が仕事に張り付くことになりました。本書においてこの洞察は、哲学、法学、倫理学の領域で検証されます。文体はやや難解かも知れませんが、内容はわたしたちにとって切実な問題を扱っています。

また装丁はバロックの画家ジュゼッペ・マリア・クレスピの《聖体拝領》(1712年)というすばらしい作品です。わたしは担当編集にお願いして、かなりムリをしてこの作品の図像をカバーに使用してもらいました。描かれているのは「聖体拝領」という仕事の場面ですが、画面中央に位置する司祭の描写はとても示唆的です。アガンベンの議論とよく響き合うイメージになっていますので、本文に疲れたらこの想定をぼんやり眺めるだけでも、なにかしらの感想が思い浮かぶのではないでしょうか。

http://www.ibunsha.co.jp/books/978-4753103539/

金子先生の新刊がでました



UPDATE 2022-03-05

新刊出版『〈洗う〉文化史-「きれい」とは何か』

 2022年2月に、国立歴史民俗博物館・花王株式会社(編)『〈洗う〉文化史-「きれい」とは何か』(出版社:吉川弘文館、ISBN:978-4-642-08406-2)が刊行されました。歴史学・民俗学を主たる研究分野とする研究機関である国立歴史民俗博物館と、清潔・衛生に関する多様な製品で知られている花王株式会社との共同研究という、人文学系の諸分野では大変珍しい産学協同による共同研究の成果です。日本を中心としながら、タイおよびインドネシアとの比較を試みるという構成の共同研究に私(金子正徳・国際学部特任准教授)も参加し、本書ではインドネシアに関する章を担当しました。

 本の概要については出版社の説明を引用することとします。


「私たちはなぜ「洗う」のか。洗うという行為、清潔という感覚を古代から現代にいたるまでさまざまな事例を取り上げ、文献・絵画・民俗資料から分析。また、儀礼・信仰の世界での「祓う」「清める」といった行為の意味を追求し、精神的な視野も交えて、日本人にとって「きれい」とは何かを考える。現代社会の清潔志向の根源を、歴史と分析科学から探る。」(http://www.yoshikawa-k.co.jp/book/b598240.html


 この本は一般向けの書籍です。歴史学、民俗学などの多様な研究者が執筆しているほか、花王株式会社の方々もそれぞれの専門性を活かしたコラムを書いている点がユニークな特徴です。

 本学の学生たちにとって、この本が、身体や衣服を「洗う」という行為をめぐる歴史的・文化的な変遷、そして現代的な意味を多様な角度から捉え直し、私たちの生活の中で「もはや当たり前のこと」をあらためて考えるきっかけとなればと希望します。