かつて大学は「教えを受ける場」、つまり知識を蓄積する場として機能してきました。しかし現代において、大学教育のあり方は大きな転換期を迎えています。単に情報を覚えるだけではなく、「自ら問い、考え、行動する力」――すなわち主体性を育むことが、今、大学に強く求められているのです。
では、なぜこのように「主体性」が重視されるようになったのでしょうか?本稿では、その背景と意味を探りながら、大学教育の今とこれからを考えてみたいと思います。

社会が求める力の変化

まず背景にあるのは、社会の急速な変化です。AIやロボットによる自動化が進み、以前のように「与えられた仕事を正確にこなす」だけでは通用しない時代が到来しています。答えのない課題に向き合い、多様な人々と協働しながら、新たな価値を創造していく――そんな力が、これからの社会ではますます求められていきます。
文部科学省もこうした時代の要請に応える形で、学習指導要領の中で「主体的・対話的で深い学び」を掲げ、初等中等教育から大学教育へと一貫して、学びの質的転換を推進しています。
大学教育の現場でも、アクティブ・ラーニング、PBL(課題解決型学習)、反転授業、ポートフォリオ評価などの導入が進められていますが、これらの根底にあるキーワードこそ「主体性」なのです。

学習机とパソコンのイメージ

「正解主義」から「問いを立てる力」へ

これまでの教育では、「いかに正しく答えられるか」が評価の中心でした。試験の点数やレポートの正確さが、学生の力を示すとされてきたのです。しかし現代社会では、「そもそも何が問題なのか」「どう問いを立てるべきか」といった問題発見力が重視されています。
大学教育の中で、学生が自ら問いを持ち、調べ、考え、発表し、他者と対話しながら学びを深めていく――こうしたプロセスは、知識を「自分のもの」として内面化するために不可欠です。主体性とは、まさに「問いを持って学ぶ姿勢」と言い換えることができるのです。

主体性は「経験の中で育つ」

主体性を育てるには、知識だけでは足りません。重要なのは、学生自身が「自分でやってみる」経験を通して、その必要性や喜びを実感できることです。
たとえばグループワーク、ディスカッション、フィールドワーク、ゼミでの研究活動など、実際に他者と関わりながら学ぶ場面は、主体性を育てる絶好の機会です。ときに失敗し、葛藤しながらも、「自分で選び、判断し、行動する」経験が積み重なることで、学生は少しずつ自ら学ぶ力を身につけていきます。
このように、主体性は講義だけではなく、「実践を通じて育つもの」なのです。

教員と学生の関係性も変わる

主体性を育む教育には、教員と学生の関係性も再構築が求められます。これまでのような「教員が知識を一方的に与える」関係ではなく、共に学びをつくるパートナーとしての在り方が求められるようになってきました。
教員は「答えを与える存在」から「問いを引き出す存在」へと役割を変え、学生の探究を支援し、フィードバックを通じて学びの深まりを促していく。そのような姿勢が、学生の内発的な学びへの動機づけを高め、結果的に主体性を伸ばすことにもつながります。

主体性を育てることの先にあるもの

大学教育で主体性を育てることは、単なる「就職のため」ではありません。もっと本質的なところで言えば、「自分の人生をどう生きていくか」を考える力を養うことでもあります。
自らの問いを持ち、情報を集め、考え、他者と協働して行動に移す。これは学びのプロセスであると同時に、人生を切り拓く力そのものです。
大学生活という自由度の高い時間をどう使うか、自分は何に関心があり、どんな価値を大切にしたいのか――そうした問いに向き合う経験こそが、学生一人ひとりの未来をかたちづくっていくのです。

おわりに:大学は「問いの出発点」

「主体的に学ぶ」とは、何も特別な能力ではありません。最初は誰もが不安で、戸惑いながら少しずつ身につけていくものです。そしてそれを支えるのが、大学という場であり、教員や仲間たちの存在です。
大学は、すべての学生にとって「問いの出発点」です。ここで育まれる主体性は、卒業後もずっと、自分らしい学びと生き方を支えてくれる大きな力になるでしょう。