大学教育において、学生の主体性を育てるためには、知識の獲得にとどまらず、「自分がどのように学びに関わるか」を自覚する機会を設けることが重要です。その一つの方法として注目されているのが、「チーム学習(共同学習・協働学習)」です。チーム学習とは、学生同士が協力し合いながら課題に取り組む学びのスタイルです。複数の視点が交差し、知識や意見を出し合う中で、学生は自分の思考の癖、行動の傾向、他者との違いに気づいていきます。そうした気づきは、自分の「立ち位置」つまり、集団の中での役割や価値、そして他者との関係性における自分らしさを理解するうえで、非常に重要な手がかりとなります。
なぜチーム学習が必要なのか
大学では、多くの学びが「個」で完結しがちです。講義を受け、レポートを書き、試験を受けるという一連の学習プロセスは、基本的に一人で進めるものです。しかし実社会では、複数人で協働しながら課題を解決していく力が求められます。知識や技能と同じくらい、他者とどう関わり、どう貢献できるかという力が問われるのです。
このような力を育む場として、チーム学習は極めて有効です。ただし、ここで重要なのは、単に「協力して課題をこなすこと」ではありません。むしろ、チームの中で自分がどう振る舞い、どのように他者と関わるのかを内省し、自覚的になることこそが、学びの本質になります。

自分の「声」の扱い方を学ぶ
チーム学習の中では、積極的に意見を言う学生もいれば、周囲の空気を読んであえて発言を控える学生もいます。どちらが良いという話ではありません。大切なのは、「自分はなぜこの場面で発言した(しなかった)のか」「どのようなときに言葉が出やすくなるのか」といった、自分自身の傾向に気づくことです。
たとえば、ある学生はグループワーク中に「自分は意見をまとめる役割が自然と多い」と気づきます。その気づきを通して、「自分は全体を俯瞰する視点を持っているのかもしれない」と自分の特性を言語化し、学びへの関わり方を再構築していくようになります。
こうした過程は、メタ認知的スキルを高めることにもつながります。自分の考え方や行動を一歩引いた視点から捉え、「どのようにすればより良く関われるか」「どのようにすれば学びが深まるか」を見つめ直す力は、主体的な学びにおいて極めて重要です。
関係性の中で育まれる主体性
主体性とは、単に「自分の考えを持つこと」ではありません。他者との関係の中でこそ、自分の考えや行動は意味を持ちます。チーム学習の場面では、相手の発言に触発されて考えが深まったり、誰かの困りごとに自分が自然と支援役に回ったりといったことが日常的に起こります。
そうした関わりを通じて、学生は「自分は誰かの役に立っている」「自分の意見が場に影響を与えている」という感覚を得ることができます。この感覚が、学びの主体者としての自覚を育てるうえで極めて大きな役割を果たします。
また、時には自分の意見が受け入れられなかったり、他者との意見の違いに戸惑ったりすることもあるでしょう。そうした経験は決してマイナスではなく、「どう伝えれば伝わるのか」「どのように違いを受け止めればいいのか」といった対話的な力を育てる絶好の機会となります。
振り返りは“未来の関わり方”をつくる時間
チーム学習の価値を最大限に引き出すためには、活動後の振り返りの時間が不可欠です。ただ課題を終わらせて「できた・できなかった」で終わるのではなく、そのプロセスを言語化し、意味づけることで、学習体験が自分の内面に根づいていきます。
振り返りの本質は、「過去を評価すること」ではありません。それはむしろ、未来に向けて自分の関わり方や学び方を新しく編み直す時間です。どのように関わったのか、なぜそのように考えたのか、どの瞬間に躊躇したのか、仲間の言葉や態度にどう反応したのか――そうした細やかな体験を丁寧に振り返ることで、学生は自分の思考・感情・行動のパターンに気づいていきます。
このプロセスは、まさにメタ認知的な営みです。自分を外側から見つめ直す視点を持つことで、「次はもっとこう関わってみよう」「あの時の躊躇を言葉にしてみよう」といった前向きな構えが生まれます。
さらに、こうした振り返りを個人の内省にとどめず、グループ全体で共有する機会を設けることによって、学びはより深まりを増します。他者の気づきや視点に触れることで、自分には見えていなかったチームのダイナミズムに気づいたり、自分の言動が予想以上に誰かに影響を与えていたことを知ったりすることがあります。
教員の役割は、こうした振り返りの時間を単なる「感想共有の場」に終わらせず、問いを通して思考を深め、次の学びへとつなげる導線を整えることです。たとえば以下のような問いは、学生の思考を促すうえで有効です。
- 「自分の役割はどのようなものだったと感じましたか?」
- 「他者の行動から学んだことはありますか?」
- 「もし次に同じ課題に取り組むとしたら、どう関わり方を変えますか?」
このように、振り返りは「今の自分を知る」ことと「これからの自分をつくる」ことの両方を可能にする、未来志向の学習活動なのです。
教員の役割は「安心して試行錯誤できる場」をつくること
チーム学習が有効に機能するためには、学生同士が安心して意見を交わせる場の設計が欠かせません。そのためには、教員の関与が重要になります。
まず、教員自身が「さまざまな関わり方があってよい」という価値観を明確にし、それを学生に伝える必要があります。意見を積極的に述べることも、黙って周囲を支えることも、どちらも意味のある参加の仕方であると認識されることで、学生は自分の関わり方に自信を持てるようになります。
また、活動後の振り返りを設計し、学生がメタ認知的に自分を見つめ直す機会を提供することで、学びの経験は深く内面化されていきます。教員は、知識を教えるだけでなく、学びの場の関係性と内省の深まりを支えるファシリテーターとしての力を発揮することが求められます。
自分の「立ち位置」を知ることが、学びの起点になる
最終的に、チーム学習が育む最大の成果は、「自分の立ち位置を知ること」です。自分はどんな時に力を発揮できるのか、どんな役割が自然にフィットするのか、どのような関わり方が心地よいのか。そうした問いを通して、学生は自分自身の学び方を再発見していきます。
そしてその気づきは、将来の進路選択や職業観、他者との協働の在り方にまでつながっていきます。自分を知ることは、他者と生きる力を育てることにほかなりません。
公開日: 2024年7月28日
著者: 大塚 正人