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「多様化する食生活の中 ”安全” 求める消費者と農山漁村の起業女性をつなぐ」食農ビジネス学科副島 久実准教授(FLOW99号「研究最前線」より)
働く女性の増加とともに、食に対するニーズも多様化しています。手間をかけずに食べられる商品が市場にあふれ、デリバリーサービスの利用も一般的になりました。一方、農漁業に携わる女性を中心に、安全な加工食品を販売するビジネスも広がっています。副島准教授は、こうした女性グループと連携し、よりよい起業や地域振興のあり方を研 究しています。
研究のきっかけは、学生時代に漁村の女性から聞いた話でした。タ イなどの高級魚でも、規格外のサイズというだけでスーパーは取り扱わず、捨てられてしまう――。女性たちは「もったいない」と、水産物を加工して販売する活動を始めていました。
そして今、働く女性が帰宅してすぐに使えるものを、との視点で加工や販売に取り組む女性起業家が増えていると実感しています。
「私も働く母親で日々忙しく、夕食を作る時間はあまり取れませんが、レンジでチンだけだと寂しい。まともなものを子供たちに食べさせたい 気持ちがあります」。働く女性らをターゲットに、焼くだけなど簡単でお いしいとアピールする食品は多くあります。しかし「添加物を多く含み、 食材の鮮度を濃い味付けでごまかしている商品もあります」。安くて人気があっても「それを求める消費者ばかりではないはず」。その裏付けを取るため、彼女らの手掛けた商品を東京のセレクトショップと協力し て、販売動向を調べる計画を進めているところです。
また、各地の農山漁村の起業家たちをつなごうと2003年、研究者仲間とともに「うみ・ひと・くらしネットワーク」を作り、2020年秋には一般社団法人化しました。会員は全国に63人。新商品の試食や魅力的な写真の撮り方など多様なテーマを設けて毎月オンラインで勉強会をしています。シンポジウムも毎年実施しており、2021年度は対面とオンラインのハイブリット型で開催しました。
起業した女性が「自分だけ儲けたいのか」「仕事など辞めろ」と 周囲から非難されることもあるといいます。「彼女たちは地域の資源を無駄にしたくない気持ちが一番にあります。起業で地域の農漁業が豊かになり、自分の収入にもつながれば、という人がほとんどです」。地域のための取り組みを、持続的で豊かな食生活につなげる試みが続きます。
■そえじま・くみ 2001年鹿児島大学 水産学部水産学科卒。2003年広島大 学大学院生物圏科学研究科生物生産学 専攻博士前期課程修了。2006年同生 物圏共存科学専攻博士後期課程修了。 水産大学校水産流通経営学科講師など を経て、2020年から現職。博士(農学)。 大阪府出身。
▼FLOW99号eBook(8月5日発行)はこちらから
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