理工学部
長期海外出張報告:アメリカ合衆国 テキサス州ダラス
長期海外出張報告:アメリカ合衆国テキサス州ダラス
理工学部 電気電子工学科 西恵理
私は2022年9月1日から2023年8月13日まで、長期海外出張としてアメリカ合衆国のテキサス州にあるテキサス大学ダラス校(The University of Texas at Dallas)にて研究活動を行って参りました。そこで経験した内容を少しですが共有させていただきたいと思います。
テキサス大学ダラス校では、ファティマ教授(Dr. Fatemeh Hassanipour)の研究室でお世話になりました。私はこれまで長年にわたり「乳児の哺乳時における舌運動計測」について研究してきましたが、ファティマ教授は、母親の乳房を模擬したモデルと乳児の頭部3Dモデルを組み合わせることによって乳汁流出シミュレーションをするといったとても興味深い研究をされていました。私の電気工学や計測工学の観点にファティマ教授の機械工学からのアプローチを融合させることができ、様々なディスカッションを有意義に行うことができました。
同大学には、アメリカ人の学生は1割ほどしかおらず、様々な国から学生が勉強に来ていました。年齢も30代が多く、既に結婚している学生も少なくありませんでした。特に、インド、韓国、中国などアジア人種が多く、メキシコ、トリニダード・トバゴ、ナイジェリアからの留学生とも友達になりました。同じ国の留学生同士ではヒンディー語、中国語、スペイン語などの言語で話をしていましたが、授業や研究のディスカッションではもちろん英語を使っていました。つまり英語は単なる情報を伝えるための共通のツールで、多少英文法が間違っていようと、発音が間違っていていようと、誰も気にせず積極的に発言します。ある時、インド人の留学生が携帯電話でヒンディー語と英語を混ぜて話をしていました。「日常ではヒンディー語を使うけれど、小学生の時から学校では英語を使っていたので、勉強の内容は英語の方が伝えやすい」と話してくれました。日本の教育現場でしか過ごしたことのない私には、非常に新鮮な話でした。日本の教育現場で英語を使用することの是非はありますが、日本がもしこのような環境であればどのような変化があるだろう、と考えさせられました。
暮らしの面では、「物価の高さ」を感じずにはいられませんでした。新生活を始めようと初日にトイレットペーパーを購入した際、約30ドル(約4200円)もすることに驚きました。その他の物も購入してスーパーマーケットを出るころには、こんなに物価が高くて1年間暮らしていけるだろうか、と不安になったものです。なおテキサス州は、アメリカで個人所得税を課さない州の1つであり、かつ法人所得税を課しません。このような税収の仕組みが現地企業にとって大きなメリットとなります。そのせいもあってか、テキサス州は近年とても勢いがあり、アメリカの有力企業はもちろんのこと、日本の企業もテキサス州に拠点を構え進出してきています。経済発展やコロナの影響も相まって地価や物価が高騰し、住宅、日用品、食料品、ほとんどのものが日本と比較して約3倍~5倍の価格でした。サンドイッチ1つ購入するのに10ドル(約1400円)もする日常に戸惑ってばかりでした。このような経済的な違いについて肌身をもって実感することで円安や日本経済の弱さを感じましたが、一方で日本ならではの質の良さ、きめ細やかなサービスなど、ジャパン・クオリティの優位性を再認識しました。
プライベートの面では、地元のプロスポーツチームであるNBAのダラス・マーベリックス、MLBのテキサス・レンジャーズのホームスタジアムへ何度か観戦に行くことができました。NBAの八村塁選手、MLBの大谷翔平選手が近くのスタジアムへ遠征に来た際、生観戦できたことは楽しい思い出です。しかし、テキサス州では野球があまり人気のないことに驚きました。日本で盛り上がっていたWBCの開幕時にボクシングの試合と誤認していた人がいるくらい野球はポピュラーでなく、アメリカンフットボールとバスケットボールがとても人気でした。地元ハイスクールのアメフト部の試合が毎週ネットでチケット販売されているのも驚きでした。
このように、私の海外生活は戸惑いばかりでした。私のこれまで「常識」だったことは通用せず、まさに「郷に入っては郷に従え」です。1年間の滞在体験は本当に私の財産になりました。
以上、この約1年間の長期海外出張を通じて、経験した一部を書かせていただきました。みなさんにも海外に長期滞在できるチャンスがあったら是非に、とお勧めしたいところですが、最近では現地に行かなくても手軽にオンラインツールを使って海外の方と友達になることや、海外文化を知るために多種多様な動画を視聴することが可能です。様々な価値観や文化を学び知ることが、これからの人生で何らかのヒントになることもあると思います。私もこれらの経験を研究や教育だけでなく広く役立てていきたいと思っています。
(西 恵理 准教授)