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お知らせ

2024年4月1日から10月31日までの7か月間、長期海外出張としてフィンランドのヘルシンキ大学(Helsinki University)で研究活動を行う機会を得ました。フィンランドのサマータイムを十分に体感し、そこで感じたことや考えたことを共有させていただきます。

フィンランドは北欧に位置する国で、北にノルウェー、東にロシア、南にバルト海を挟んでエストニアと隣接しています。四季がはっきりしており、特に冬は寒冷で雪が降ることが一般的ですが、夏は温暖で日照時間が長くなります。このため、フィンランドの自然は四季折々の美しさを見せ、人々はアウトドア活動を楽しむことが多いです。フィンランドは教育制度が非常に高く評価されており、無料の教育を受けることができる点や、子どもたちの自主性を重視する教育方針が特徴です。また、福祉制度も整っており、国民の生活の質を高めるための取り組みが充実しています。

フィンランドの首都であるヘルシンキは、バルト海に面した美しい港町で、多くの島々から成る風光明媚な地域です。この都市は歴史的な建物と現代的なデザインが見事に融合しており、観光地としての魅力が溢れています。たとえば、ユネスコの世界遺産に登録されているスオメンリンナ要塞や、美しいネオクラシカル建築が並ぶヘルシンキ大聖堂などがあります。また、国立美術館や現代美術館もあり、さまざまなアートや文化イベントが行われています。市民は自転車や公共交通機関を利用しており、環境に配慮した都市づくりが進められています。

私が在留したヘルシンキ大学は、フィンランドの首都ヘルシンキに位置する国立大学で、1866年に設立されたフィンランドで最も古い大学です。4つのキャンパスに11学部を有する総合大学で、3万人を超える学生が学んでいます。国際的な研究においては世界のトップ1%に入る高度な研究力を誇る機関です。今回、私は社会科学部(Faculty of Social Sciences)のソーシャルワークのユニットでお世話になり、研究活動を行いました。

フィンランドでは1960年代から「個人識別番号」(Personal Identity Number)が普及しており、社会福祉、医療、税金などを含むすべての行政機関はこの番号に基づいて個人の関連情報にアクセスできる仕組みが整っています。このようにフィンランドは「データ社会」を推進する国の一つであり、フィンランド政府は公共データをオープンデータとして提供する取り組みに力を入れています。私もこのデータを活用して研究を進めることができました。また、社会科学部の博士課程で行われている「Population, Health and Living Conditions」(Väestö, terveys, elinolot, VTE)のセミナーにも参加し、オープンデータを用いた研究について学ぶことができました。

私の滞在期間はちょうどフィンランドのサマータイムにあたり、ヘルシンキの最も爽やかで美しい季節を体験しました。5月になると町中にはオープンカフェの椅子が並び、太陽を存分に浴びることができます。日照時間が長く、ほとんど太陽が沈まない白夜や、ヘルシンキ市内で見ることのできたオーロラも印象的でした。夏のヘルシンキでは多くの文化イベントが開催され、教会や美術館で行われる無料のコンサートにも足を運ぶことができました。さらに、「森と湖の国」であるフィンランドでブルーベリー狩りやハイキングを楽しみ、毎日カモメやグースと出会う日々を過ごし、映画「かもめ食堂」をまさに体現する生活を送ることができました。

しかし、フィンランドの明るい光が強いほど、影の部分も感じざるを得ませんでした。急速な高齢化に伴うさまざまな問題や、子どもたちのメンタルヘルスの問題、家庭内暴力など、国連の「世界幸福度報告(World Happiness Report)」で1位のフィンランドにおいても、さまざまな課題が存在することを知ることができました。ヘルシンキ大学で参加したChild Protectionに関する国際比較研究の発表会で紹介された言葉があります。イギリスの作家G.K. Chestertonの言葉です。“The whole object of travel is not to set foot on foreign land; it is at last to set foot on one’s own country as a foreign land.” 「旅行の目的は、異国の地に足を踏み入れることではなく、最終的には自分の国を異国の地として足を踏み入れることである。」これは、国際比較研究をする目的として説明された言葉だったのですが、私自身の今回の長期海外出張の目的にも重なる言葉だと感じました。今回の長期海外出張では、ただ単に研究手法を学ぶだけでなく、さまざまなフィンランドの生活や文化に直接触れることが何より大切な経験でした。そこで感じ考えたことを日本に戻り、これまでとは違う視点で物事をとらえているところです。

来年はムーミンの誕生80周年の記念年となります。日本でもさまざまなイベントが行われるため、きっとフィンランドを身近に感じられる年になることでしょう。その折々に、フィンランドでの貴重な日々を思い出し、快く送り出していただいた看護学部の皆様、フィンランドで出会った人々、日本の家族への感謝も思い返す日々になることでしょう。7か月間のフィンランドでの経験を通じて学んだことを、皆様に還元できるよう努めてまいります。どうぞよろしくお願い申し上げます。

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