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バイオ医薬を点鼻薬や点眼薬にして患者の負担軽減を

  • # 研究

八木 晴也 特任助教

  • 学部:薬学部 薬学科
  • 専門分野:薬物送達学、薬剤学、医療薬学

細胞膜を透過しやすい特殊なペプチドを使って

 薬は、体内にうまく吸収されなかったり、患部だけでなく正常な組織に副作用を引き起こす場合があります。そこで、薬の性質や体内での移動を適切に制御し、狙った場所に必要な量だけの薬を届けようという技術が「ドラッグデリバリーシステム(DDS)」です。DDSによって薬の吸収や作用する場所をコントロールすることで、薬の効果をより高めるとともに、副作用や患者さんの負担を軽減し、より安全で効果的な治療につなげることを目指します。
 私は、近年実用化の進んでいるバイオ医薬を、注射を使わずに患者の負担の少ない点鼻薬のような形にして投与できるDDS技術の開発に取り組んでいます。抗体医薬などのバイオ医薬は、特定の標的だけを狙い撃ちできるため治療効果が高く、ピンポイントで作用するため副作用のリスクも低いという長所があります。現在では、がんや関節リウマチ、糖尿病、眼の病気など、さまざまな病気の治療薬として広く使われています。一方で、バイオ医薬には「体内に吸収されにくい」という大きな課題があります。その主な理由の一つが、一般的な低分子医薬と比べて分子サイズが非常に大きいことです。私たちの体の表面や消化管、鼻の粘膜などは、異物が簡単に体内へ入り込まないようバリアとして働いています。分子サイズの大きなバイオ医薬は、このバリアを通り抜けることが難しく、体内に十分な量を取り込むことができません。更に、口から投与すると胃酸や消化酵素によって分解されやすいという問題もあります。そのため、多くのバイオ医薬は現在、注射によって投与されています。

 私の研究室では、HIVウイルスが細胞内に侵入する仕組みとして発見された細胞内に取り込まれやすい特殊なペプチドに着目しました。この「膜透過ペプチド」を、生体適合性の優れた高分子に固定化し、「膜透過ペプチド固定化高分子」という独自の吸収促進剤を開発しました。これをバイオ医薬と混合することで、体内への吸収が飛躍的に促進されます。これまでに、鼻から投与した際の吸収促進効果をマウスやラットで確認し、更によりヒトに近い霊長類(サル)でもその効果を確認しています。

眼に直接注射する苦痛からも患者を解放したい

 私は大学院時代、調剤薬局でアルバイトをしていました。その歳、子どもに成長ホルモンを家庭で注射しなければいけないお母さんの悩みを聞いたことが、今の研究の原点の一つになっています。注射による身体的・精神的な負担は、患者さんやその家族にとって決して小さなものではありません。こうした負担を減らし、患者さんのQOL(生活の質)を高めることは、治療を考えるうえでとても重要です。

 現在、これまでの点鼻投与を更に発展させて、点眼投与によって眼内にバイオ医薬を届ける研究も進めています。加齢黄斑変性や糖尿病性網膜症などの治療では、眼に直接注射する必要があります。しかし、眼への注射は患者さんにとって身体的・精神的な負担が大きく、繰り返し治療を受けることも少なくありません。そこで、こうした治療に伴う負担を減らし、将来的には眼への注射を必要としない治療の実現を目指しています。

 このような研究の難しさは、生体を相手にしているため、思いがけない反応が起こることです。特に良い結果が得られたときほど、その理由や安全性を慎重に確かめる必要があります。予想外の結果をまた一つずつ解き明かしていくことが、研究の重要な部分と考えています。一方でDDS研究の魅力は、さまざまな専門分野を横断しながら、一つの課題に取り組めることです。薬を運ぶ材料の設計や、体内のどこにどの程度届いたかという体内動態の解析、届けた薬の効果の評価など、研究を進める過程でこれまで経験したことのない分野を学び、自分にできることが増えていくことに大きな充実感を感じています。

(取材内容は2026年8月時点のものです)

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