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データに基づいた教育政策で子どもたちを救いたい。

  • # 研究

名方 佳寿子 准教授

  • 学部:経済学部 経済学科
  • 専門分野:教育経済学、応用計量経済学、財政学

計量経済学の手法を使って客観的に分析。

 私はもともと財政学、応用計量経済学を研究してきました。大学で教えるようになり家庭環境や経済的事情によって満足に学べない学生がいる現実を知りショックを受けました。そして「貧困や教育格差に苦しむ子どもたちの役に立つ研究をしたい」と思うようになり、教育経済学という分野に研究の柱をシフトしたのです。当初は世界的にも教育経済の研究者は多くなかったですが、その後、先進各国でも経済格差、教育格差が顕著になるにつれて「格差はどこから生まれているのか」「子どもの能力の成長に役立つものは?」といった研究が増えています。

 研究テーマが変わっても、研究手法は変わりません。計量経済学の手法を応用し、データや理論モデルに基づく計量分析で客観的に問題を検証するのです。「どのような教育政策や支援が子どもたちの成長につながるのか」を、個人の経験や思い込みに頼らず、実際のアンケートや行政の統計データを分析し、確かな根拠(エビデンス)を明らかにして政策提言につなげようとしています。

 現在は主に2つの研究に取り組んでいます。 1つ目は、小学6年と中学3年の保護者(5000世帯)を対象とした独自のアンケート調査データを用い、家庭環境(所得、親の学歴、年齢、家族構成、習い事の有無など)や親の関わり方(勉強を見てあげる時間など)が子どもの成長や成績に与える影響の分析です。2つ目は、兵庫県尼崎市のプロジェクトで市のデータを活用した実証分析です。児童・生徒の生活習慣や家庭・学校環境が学力や非認知能力(外向性、協調性、勤勉性、精神安定性、開放性など)にどう関係しているかを検証しています。具体的には、長期欠席の要因分析や、自治体による学習支援事業の効果検証などを行っています。

データから意外な事実も浮き彫りに。

 実際にデータを分析すると、多くの発見がありました。例えば『親が勉強に干渉しすぎることが、かえって子どもの成績にマイナスに影響する』、『長期欠席の原因が低学年では家庭の事情や病気が多いが、高学年になるにつれて不登校が原因となる』、更に『自治体などの学習支援事業には、「低所得が知られるのが嫌」などの理由により参加が続かない子どもが多いことなどが大きなハードル』などが明らかになりました。客観的事実をデータから浮き彫りにすることで、本当に有効な支援策を考えられるのです。

 これまでの研究から提言できるのは、行政、教育現場、親の3者が連携して介入する必要があり、経済的支援だけでなく、親の労働環境の整備、親の価値観を変え、子どもの選択肢を狭めないなどの環境支援もセットで行うべきだということです。また、早期の介入も有効です。米国の研究では保育園児への学習支援によって、学力が顕著に伸びなくても非認知能力が向上し、将来の犯罪や10代の妊娠の抑制につながることが分かっています。また低学年のうちにある程度学習能力を上げてあげると、以後は自分から勉強し始めるセルフプロダクティビティーという能力を発揮します。身近にロールモデルとなるような大人が存在していることでも、子どもは目標や希望を持てます。

 今後取り組みたいテーマは、急に学力が伸びる・落ちる子がいますが、その背景を明らかにすることです。尼崎市の小学1年から中学2年までの成績データと家庭環境、勉強時間、テレビや携帯の時間、教育環境などのデータから分析しようとしています。また、現在増えている一人親家庭の子どもに関する問題にも取り組みたいです。
 これからも多様なデータの分析を通じて、経済的な困難や学力の伸び悩みを抱える子どもや家庭の背景にある課題を客観的に解明していきたいと考えています。国や自治体の限られた予算の中で、より効果的な支援策が求められます。困っている子どもたちや保護者の支えとなる知見を提供し支援策に還元できるように、実証研究を積み重ねていきます。

(取材内容は2026年8月時点のものです)

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